第150話量子と涼子3


 ところで、


「今日のライブの調整はいいの?」


「一応雉ちゃんのメンテ以外は済ませてあるよ?」


「でっか」


「本当は楽屋にいないと駄目なんだろうけど、データ存在がデータ空間にいても……ね」


「納得」


「後で私の体をあちこち弄り回してね?」


「表現を選ぼうか?」


 僕としては、睨んだつもりだったんだけど、


「いやん」


 量子には、熱視線に見えたらしい。


 まぁ量子は、


「まともに相手をすると馬鹿を見るタイプ」


 なので、スルーが吉だろう。


「雉ちゃん?」


 とこれは秋子。


「なぁに?」


「あちこち弄り回してるの?」


「データをね」


 今更、問う仲でもないでしょ。


 そう云うと、


「でも量子ちゃん可愛いから……」


「そらまぁアイドルですから」


「ほだされないの?」


「僕には恋人いるし」


「むぅ」


 あ、拗ねた。


「脈無しなのは今に始まったことじゃないでしょ」


「かなぁ……」


 虐められていたのを、たびたび助けたんだから、同性であれ救いを求めるのは……必然だろうけどね。


「雉ちゃんは夏美ちゃんの何処が好きなの?」


「うーん」


 言葉を整理する。


 容姿。


 精神。


 環境。


「可愛くて、傷つきやすく、独りぼっちで、放っておけない」


 まぁ要約すれば、こんなところか。


「ま、それは秋子と量子にも言えるんだけどね」


「私は雉ちゃんに救われた」


「私も!」


「うん。それはこっちも十二分に理解している」


「なのに脈無し?」


「それも、うん」


「うーがー!」


「うーにゃー!」


 ガクンガクン、と、秋子が僕を振り回し、量子がアシスト付きで、ポカポカ叩いてくる。


「しょうがないでしょ」


 両者共に、恋愛感情を持つには、業が深すぎる。


「だいたい量子はアイドルでしょ? 恋愛禁止」


「私なら良いんですか?」


「男の娘属性を身につけたら考えてあげる」


「女の子です!」


 まぁそうなんだけどさ。


「電子世界なら病気も妊娠も心配しなくて良いよ?」


「あ、それちょっと斬新」


「斬新じゃないですよぉ……!」


 秋子が、ガクガク、と、揺さぶる。


「違う違う」


 僕の言い訳。


「交合の事じゃなくて性病について」


「?」


 と秋子と量子。


「電子交合で感染拡大するウィルスとか面白そう」


「データ性病?」


「だね」


「作らないよね?」


「さすがに大日本量子ちゃんの前で、電子犯罪を起こす勇気は無いよ」


 仮に、量子が僕を検挙しないとしても、多大な借りが出来てしまう。


「むう」


 量子も、同じ考えに至ったのだろう。


 悩むって云うのはそういうこと。


「雉ちゃん雉ちゃん?」


「何々?」


「私となら電子交合してくれる?」


 まずい。


 秋子にまで、アホが感染ったか。


「特に興味は湧かないかなぁ……」


 心底本音だ。


 残酷ではあろうけども。


「む~」


 こっちもこっちで悩み出した。


 大変だね君たち。


 僕には関係ない案件だけど。


「関係ない」


 というより、


「悩む必要がない」


 が、この際、正解か。


 そんなこんなで、ランドアークで、やいのやいの騒ぐ僕らだった。


 時間は午前。


 目指すは寺。


 普遍的な、小さなお寺である。


 お盆だしね。

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