第95話あなたは涼風の様で2


 ローマエリア。


 その非戦闘区域。


 僕らは、そこでお茶していた。


 仮想体験ではあるけども。


「いやーコキアさん育ってきたね」


 カップを受け皿に、カチン、と、置いて、スミスが言う。


「どうも」


 コキアは、素っ気ない。


 当たり前か。


「もうちょっとレベルが上がれば俺のギルドに紹介するよ。どう? そういうの」


「必要ありません」


 鎧袖一触……とは行かなかった。


「でもさぁ」


 食い下がるスミス。


「イレイザーズより経験値稼げるよ? 俺もフォローするし」


「必要ありません」


「そんなこと言わずに」


 あの手この手でコキアに接触しようとするスミスだったけど、悲しいかな……君の下心は全部漏れていたりして。


 主に僕のせいで。


「私はハイドちゃんとオドが出来ればそれでいいですから」


「じゃあハイドもどう? コキアさんと一緒に内のギルドに」


「面倒」


 快刀乱麻。


 しかして他に言い様も無い。


 元よりレベル950台だ。


 利用されることはあっても、逆はない。


 僕にとって、ギルドやグループは、足枷でしかないのだ。


 主に僕のせいで。


 そんなわけで、


「好きにしてください」


 と思う他ない。


 紅茶を飲む。


「コキアさんは絶対俺のギルドに入った方が良いって。安定した経験値の供給を約束できるぜ?」


「別にたかがゲームで強くなっても……」


 コキアさんコキアさん。


 それを言っちゃあ、お終いです。


「でも現実としてコキアさんはオドをやってるじゃん」


「まぁ色々と思うことがありまして」


「なら選択肢はないでしょ?」


「それとこれとは関係ありませんよ」


 そんなこんなで、スミスの提案をコケにするコキアだった。


 僕はと云えば、そんな一方通行のやりとりから意識を離して、淡々と茶を飲むミツナに声をかけた。


「大丈夫?」


「何がでしょう?」


「なんとなくそう思っただけ」


「心配は痛み入ります」


「人を殺すのは慣れない?」


「まぁ忌憚なく言えば」


「雑魚キャラもボスキャラも、人間の鋳型だからね」


 苦笑してしまう。


「なんとなく罪悪感を覚えるのは否めません」


 然り。


 紅茶を飲む。


「じゃあ今度からは別のエリアに行く?」


「私は構いませんが……」


 困惑するようにミツナ。


「北極エリアとか?」


「寒そうですね」


「まぁコートを着ればそうでもないよ」


「コートなんて持ってませんけど……」


「そこはまぁ僕に任せて」


「はあ」


 ポヤッと返すミツナ。


 そこに、


「ハイドちゃん?」


 別の声が、わって入った。


「なぁに?」


 淡白な僕。


「ミツナちゃんにやけに親しくするね」


「他意はないよ」


「本当に?」


「本当に」


 シリョーの追及を、サラリと躱す。


 この程度の腹芸は、出来て当然だ。


 何せ、僕は、色々と面倒だ。


 である以上、鉄面皮は呼吸するようにできる。


「だいたいシリョーには関係ないでしょ?」


「……本気で言ってるの?」


「降参」


「ハイドちゃん?」


「何でっしゃろ?」


「これからデートしない?」


「夜も遅いし……」


「だからサードローマエリアとかで」


 まぁ構いはしないけど……。


 何だかなぁ。


 危機感を持つのは自由だけど……君……データでしょ?


 そう言いたかったけど、最後の良心が、口を留めた。


 まぁ僕としても、初心者のフォローに飽きていた頃合いだ。


「別に構わないけどさ」


「やた。じゃあ行こうよ」


 あいあい。


「じゃ……今日はここまでってことで」


 そして僕とシリョーは、教皇猊下を討ちに行くのだった。


 大丈夫か……オーバードライブオンライン。

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