第94話あなたは涼風の様で1


 だいたい、今のコキアとミツナのレベルなら、ローマエリアが最適だろう。


 ということで、ローマのクエストフィールドにて、ここ数日イレイザーズは遊んでいた。


 現れる敵は、宗教の信者。


 素手で襲い掛かってくる。


 応対するは、コキアとミツナ。


 パパパパッ、と、小さな炸裂音が鳴って、魔弾が発射される。


 ウィザード……コキアの魔法だ。


 タタタタァン、と、甲高い炸裂音が鳴って、銃弾が発射される。


 ガンリアー……ミツナの銃撃だ。


 アクションゲームを踏襲しているため、雑魚キャラは一切傷つかずに、ヒットポイントを減らし、零になればフェードアウトするだけなのだけど、此処……ローマエリアでは、良心の呵責と折り合いをつける必要がある。


 何せ襲ってくるのが、どう見たって一般ピーポー。


 当然、頭部や心臓を攻撃すれば、クリティカル判定が出るんだけど……意図してそこに攻撃できるかは別問題。


 VRゲームが、


「仮想犯罪と実質犯罪の境界を薄める」


 というプロパガンダを、うっかり信じてしまいそうになるフィールドだ。


 仮にそうした犯罪者が出たところで、僕の知ったこっちゃないんだけど。


 閑話休題。


「ホットレーザー!」


 ボイススキップ機能で、必殺技の名を叫ぶミツナ。


 そしてミツナの銃から、レーザーが射出される。


 貫通力を持った超射程のレーザーだ。


「うりゃあです!」


 ミツナは、銃口を右から左に振った。


 レーザーも、銃口に合わせて右から左へ。


 必然、扇状に敵がやられていく。


 残った敵は、


「チェインボム!」


 コキアの魔法で、吹っ飛ばされた。


 爆発が爆発を呼び、百に届こうかと云う雑魚キャラの群れは、駆逐されていく。


 チェインボム。


 ウィザードの持つ、雑魚殲滅用の魔法だ。


 対象を指定して爆殺し、その爆発に触れた対象を爆殺する。


 それが連鎖の如く広がっていって、雑魚キャラの群れを駆逐する……広域殲滅スキル。


「うん。中々育ってきたね」


 シリョーが、嬉しそうに言った。


「コキアさん。MP回復しよっか?」


 スミスが、下心丸出しで言った。


「必要ありません」


 コキアは、けんもほろろ。


「疲れた。交代」


 気苦労があるのだろう。


 手を上げて、疲労の吐息をつくのは、ミツナ。


「任されました」


 僕はそんなミツナに、ハイタッチ。


 先行するのは僕。


 オーバードライブオンラインは、無双ゲーであるため、雨後の筍の如く、ポコポコと雑魚キャラが沸いて出る。


 とは言っても雑魚は雑魚。


 十把一絡げに相違ない。


「フォトンブレード」


 手に持つナイフ……グラムの固有スキルを発動させる。


 ナイフから光の刃(ぶっちゃけビームサーベル)が展開される。


 その刀身は、五メートルを超える。


 広域殲滅用のスキル。


 ちなみに、装備固有のスキルであるため、MPは消費しない。


 そして、僕は、加速した。


 疾風だ。


 超過疾走システム。


 その恩恵によって、人間の持つフィジカルの、きっかり十倍の出力を誇る。


 湧いて出る雑魚キャラ……信者である人間型アバターを、苦にもせず屠っていく。


 グラムの刀身から伸びるビームサーベルは、無数の群れとなった雑魚キャラを、触れただけで滅ぼす。


 一方的な虐殺だ。


 血も出ないし、苦鳴も聞こえないけど、


「殺人を行なっている」


 ということは、事実である。


 仮想体験だけどね。


 もっとも、そんなことをチクチクつつけば、オドなんてやってらんないわけで。


 良心の呵責とは、既に折り合いをつけている。


「おおおおおおおおおおっ!」


 目に付く雑魚キャラを、殺して、殺して、殺しまわる。


 そして、フィールドを進めていく。


 半径五メートルを結界とし、


「斬殺領域」


 と僕は呼んでいる。


 グラムの固有スキルの一つ……フォトンブレードは、装備者の意思によって、幾らでも刀身を伸ばすことが可能だ。


 ただし刀身……射程が伸びれば伸びるほど、攻撃力が下がるんだけど。


 いくらかの経験によって、


「五メートルが最適だ」


 と僕は結論付けている。


 切殺。


 斬殺。


 断殺。


 疾駆と跳躍を繰り返して、雑魚キャラの頭部を切り裂いていく。


「断じて行えば鬼神も之を避く」


 ではないけど、まぁ似たようなモノだろう。


 そして、雑魚を殺しつくして、フィールドを進めると、


「邪教徒よ。神の怒りに触れるが良い」


 ボスキャラが現れた。


 ちなみに司教。


 これがセカンドエリアやサードエリアともなると、枢機卿や教皇猊下が出てくるんだけどね。


「はい。交代」


 ミツナとハイタッチ。


 ボスキャラは、ウィザード寄りの能力だ。


 コキアのウィザードと、ミツナのガンリアーには、互いに相性が良いだろう。


「ダムダムショット!」


 ミツナがスキルを放つ。


 それが、ボスとの最初の接触だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る