第176話光と影を抱きしめながら5


 防衛省の地下施設。


「寒……」


 僕は腕を抱いて、寒波に抵抗した。


 スパコンが並んでいる。


 熱を抑えるための空調だ。


 量子コンピュータも、かなり無尽蔵な演算能力を持つが、優劣もある。


 量コンでも上位のモノは、クラシックにスパコンと呼ばれている。


 いまそれが休みなく稼働しているわけだ。


 防衛省。


 軍事の管理。


「一応これで全世界を敵に回しても、世界大戦の作戦を千度並列せしうる演算能力を持っているつもりです」


 そりゃすごい。


 まったく役に立たないハイスペック。


 税金の無駄遣いとは、まさにこのコト。


「それで」


 と軍人さん。


「それぞれの演算を、自意識で統括したいところなのですけど……」


 まぁ一般的な人工知能では、無理だろうね。


 哲学的ゾンビは、結局のところ、システムと変わらない。


 外見上を振る舞えるのは前提としても、システムの話になると、どうしても後手に回ってしまうのだろう。


 その点は、僕もよく知っている。


 ていうか専門分野だし。


「その、一応、此処でのことは」


「黙秘しますよ」


 契約書にも書かれてある。


 特秘事項。


 軍事機密。


 その事情は……まぁわかる。


「それで電子犯罪を監視して、善し悪しをはかり、検挙するのが」


「はい」


 国家アイドル、大日本量子ちゃん……と。


 たしかに宣伝の意味では、正しい広告だろう。


 可愛らしい大日本量子が、


「こら! 電子犯罪はダメ!」


 といえば、大きなお友達は、正道に帰るかも知れない。


 防衛省的にどうよ?


 そこはツッコまざるを得ないだろう。


「本来なら単なる知能で、このスパコン監視を統括するだけでしたが」


「はあ」


「部下の一人が『それなら電子アイドルを作っちゃおうぜ!』と強硬論を展開しまして」


 全く以て、


「御苦労様」


 としかいいようが無い。


「オーディションとかは行なわないので?」


「一応国家機密なので」


 確かに。


「ミス涼子の方は宜しいので?」


「いまと変わんないし」


 へらへらと笑っていた。


 まぁそうだよね。


 僕としても同意見。


 ネット上の、自然発生型人工知能だ。


 ぶっちゃけた話、野良AI。


「それでもいいのなら」


 とだけ忠告しておく。


「構いません」


 軍人さんは、頷いた。


 この人も、大変だ。


「じゃあスパコンのリンク……解放して貰えます?」


 僕は自分の周囲に、イメージコンソールを展開する。


「涼子はアバターどうする? 即席でいいなら幾つか用意できるよ?」


「いまの私は可愛くない?」


「めっちゃ可愛い。惚れる」


「ならいいじゃん!」


 そんな基準で国策が決まるなら、日本の将来は明るいね。


 コンピュータとリンク。


 まずは、演算とデータを、全て網羅。


 バックアップに落として、解析。


 ふんふん。


 なるほどにゃるほど。


 イメージとしては、タコ足配線だろうか。


 それぞれ独立しているスパコンを、それぞれに見分。


 いちおう補助演算も為されているが、科学の最先端でしかない。


 いや、機能としては十全なのだけど、


「僕の域にはない」


 も事実だったりして。


「涼子」


「はいはい?」


「ニューロンマップ開いて」


「さっさーい」


 リンク。


 こっちは既に知っている。


 一度組んだ人工知能は、さすがに忘れるのも難しい。


 自我変数を崩さないままに、格スパコンへリンク。


「わお」


 イメージの逆流が起きているだろう。


 日本そのものを監視するスパコンだ。


 その決定権を握れば、


「国内をデータで俯瞰する」


 も同然だ。


 さらにスパコンが熱を持つ。


「こっちの対策も必要だね」


 スパコンそのものは、いままで通りで良い。


 それを総括する……涼子の演算不可を、最小限まで削る。


「雉ちゃん本当に人間?」




 ――こっちの僕は違うよ?




 言って詮方なき。


 コンソールを、軽やかに叩く。


「あー、あー、マイクテスマイクテス」


 防衛省のスパコンに繋がった涼子は、その超演算で声確認を行なった。


 何か意味があるのだろうか?

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