第177話光と影を抱きしめながら6
「電子犯罪ダメ! 絶対!」
バキューン、と、量子が指鉄砲を撃つ。
テレビの中だ。
正確には映像投射器。
世論沸騰。
日本激震。
警察の制服を着てテレビに出る量子は、あらゆる意味で人気が出た。
二次ェクトは禁止なんだけど。
いままで警察が行なっていた電子犯罪の検挙。
それらを上回る演算と監視で、量子は日本を支配した。
当然、背後には日本政府がいるので、テレビにニュース、雑誌に広告……ありとあらゆるところで、大日本量子ちゃんは見受けられる。
エリマキトカゲね。
あるいはウーパールーパーか。
昨今珍しい……黒髪の電子アイドルでもあり、
「日本には量子有りき」
とまで、グラビアで、題打たれた。
無念。
とにもかくにも。
「ふぅ」
防衛省のスパコンで、超演算を行なう量子は、ハンパではなく、警察力の届かない領域まで、犯罪検挙をやってのける。
新たに出てくる合法ドラッグを解析して、違法でなくとも、その場で違法にしてしまう能力は、ある意味で一種のファシストだろ。
「量子ちゃん、凄いね」
これで日本も穏やかになるだろう。
電子犯罪者のご飯代が、税金から出ることを無視すれば。
「雉ちゃんも凄い」
ありがとさん。
今日は、ぶり大根だった。
家で夕餉を取る。
紺青秋子どのは、甲斐甲斐しい女の子でした。
第二の幼馴染みだ。
「美味しい?」
「超美味い」
グッ、と、サムズアップ。
「よかった」
良かれ良かれ。
そこに、
「きーじちゃん!」
黒髪ツインテールが現われる。
大日本量子ちゃんだ。
アシストを使って、頬をスリスリ。
――スキャンダール!
ゴッドアイシステムに見つかったら、明日の朝刊に載る。
「うへへぇ。しゅき」
「光栄だ」
「量子ちゃん、お仕事は?」
「してるよ?」
まぁデータ処理はね。
知能そのものは、防衛省のスパコン由来だ。
問題はクオリアにある。
要するに自我が一つなのだから、
「アバターを動かす演算が一つしかない」
という、電子アイドルには、奇矯な特性を持つ。
電子犯罪への抑止力の片手間に、日本政府は量子を猛プッシュした。
そりゃ当たる。
たまに記者クラブにまで出たりして。
政治家の不正献金。
富豪の脱税。
若者の電子ドラッグ。
その他、諸々。
合わせて、犯罪者には、住みにくい世の中。
その筋では、結構恨まれているとのこと。
閑話休題。
そんなわけで、犯罪検挙の演算は別として、大日本量子はコピペが出来ないので、スケジュールを抑えるのが最も困難な電子アイドルと相成った。
ネットでも噂されている。
「実は大日本量子ちゃんは、並列演算で仕事を入れない」
と。
多分、政府のステマ。
でもアイドルとしては強みだ。
単なる電子アイドルなら、埋もれるだけだろうけど、大日本量子ちゃんに限り、スケジュール管理が、ブランド商売と相成る。
僕には関係ないけどね。
「雉ちゃん!」
「なぁに?」
「一緒にお風呂入ろ?」
頭沸いてんのか。
少し懸念も覚える。
「いいじゃん」
「秋子と一緒に入りなさい」
「雉ちゃんがいい!」
「却下で」
さっくり破却。
ぶっちゃけ、そんなつもりはケほども無い。
「雉ちゃん……」
今度は、秋子が、不安げな顔になった。
「何もしないって」
「本当に?」
僕と僕は、まったく重なって、同じ結論を出した。
『二重統合人格』
とでもいうのか。
双子システム。
同一であるからコクピットが、二つ有っても矛盾しない。
それもそれで何だかな。
「雉ちゃん雉ちゃん愛してるよー」
「電子犯罪を犯しても?」
「雉ちゃんなら見逃す」
クオリア持ちの監視システムなので、そういったフレキシブルも性能には加えられる。
「いーのかなー?」
「はて?」
「南無」
これって……考えたら負けってヤツじゃね?
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