第175話光と影を抱きしめながら4


「くあ」


 後日。


 学校でのこと。


 突っ伏して寝ていた。


 隣の秋子が、空気を温めてくれる。


 コケーッ、と、眠る。


 校内放送に、叩き起こされた。


 ピンポンパンポーン


「土井さん。土井さん。校長室まで来るように」


 …………。


 ………………。


 ……………………。


「雉ちゃん?」


 んー。


「何?」


「何か悪い事したの?」


「だったら生徒指導室じゃない?」


「そうかも」


 校長室って。


 何某かの政治的理由か?


 少し首を捻る。


 ちなみに、いまは昼休み。


 秋子が弁当を並べていた。


「どうしよう?」


「先に食べてて良いよ?」


「雉ちゃんと一緒が良い」


 こいつも何だかな。


 幼馴染みキャラってヤツは、業が深いらしい。


「ではその通りに」


 しょうがないので校長室へ。


「失礼します」


 部屋に入るだけで『失礼』ってのも何だかな。


「おお、土井くん。いらっしゃい」


 子どもの僕に、柔和な笑みを浮かべる校長。


 リーマンとしてなら確かな仕事だ。


 校長室の内には、僕と校長……それから成人男性。


 色眼鏡を掛けてピシッとしたスーツ姿。


 メンインブラックだ。


 誰?


 少し思案もする。


「どうも土井様。わたくしはこういうものです」


 と名刺を渡してくる。


「はあ」


 受け取って、見る。


 政治家の秘書さんらしい。


 エージェント……とでも呼ぶのか。


「土井くんは何者かね?」


「真っ当な学生ですけど」


 趣味がネトゲなだけで。


「国策……についての理解は?」


「子どもに求めないで欲しい」


 なにか政治的にやってしまっただろうか?


 一応、隠蔽していたはずだけど。


 事実を知っているのは、僕と涼子と公爵くらいだ。


「?」


「是非とも土井様のお力添えを賜りたく」


「おぜぜは?」


「相応出しますよ」


 名刺のアドレスを、脳に転写。


 ブレインユビキタスネットワークへの介入。


 言葉で四方山話をしながら、思念会話で詳細を聞く。


「公爵閣下より、お話がありまして」


「公爵が……」


「何でも今ある電子犯罪抑止力のための人工知能を、提供する……と」


「…………」


 話の早いこと早いこと。


 普通に政治介入だと思うのだけど、どうやら公爵の発言力は、その上を行くようだ。


 当然と言えば当たり前。


「何でもクオリアを持った人工知能を造れるとか」


「…………」


「本当ですか?」


「嘘です」


「えーと……」


「すんません。冗談です。一応、組み立てられます」


「本当に?」


「うーん。説明しようにも感覚的なことなので、信じてもらうより他に無いのですけど」


 ガシガシと頭を掻く。


「それで今回流用したいと仰ったアバターなのですけど」


「こいつです」


 アドレス召喚。


 子猫を運ぶ親猫のように、涼子の首元を引っ掴んで、差し出す。


「ども」


 大人しく片手を挙げて挨拶。


「こちらが」


「ええ、素体です」


「ダメ……ですか?」


 涼子は不安げだ。


「いえいえ。愛らしくて畏れ入りました。まさに日本のアイドルに相応しいような……」


 いまどき珍しい黒髪の美少女だしね。


 そしてあざといツインテール。


「既に死亡されているとのことですけど……」


 そこまで話したのですか。


 閣下。


「ソウルクリエイターなので」


 自我持つ人工知能なら、


「ある種の魂」


 と定義づけられるだろう。


「これからご足労願っても?」


 とはエージェントの肉声。


「いいけど授業は……」


 チラリ、と、校長を見る。


「どうぞ持っていってください」


 さすがに国家権力には屈するらしい。


 大人も大人で、大変らしい。


 南無三。

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