第84話傷はまだ瘡蓋残し3


「あら? 夏美ちゃん」


「へ?」


 ギクリと、道化が、名を呼ばれて止まる。


「あらあらまぁまぁ」


 うふふ。


「奇遇だね」


「奇遇です」


 色々と僕の服を見繕って着せ替え人形にし、


「この店の服はちょっと雉ちゃん向けじゃないなぁ」


 とかなんとかほざいた量子と一緒にセレクトショップを出ると、


「ども」


「……どうも」


 信濃さん家の夏美さん(?)とばったり出くわした。


 これがまた異様な格好の。


 一応のところ美少女ではあろうけど、それらは装いによって、残念な感じにイメチェンされていた。


 まず色眼鏡。


 赤い瞳を隠すように黒い真円が二つ。


 アメリカのお笑い芸人もしないような、あまりに残念なサングラス。


 次に帽子。


 赤い髪を多少なりとも隠している。


 ツバ付きの普通の帽子だ。


 刺繍されているロゴは、とあるスポーツチームのソレ。


 服はワイシャツにジーパン。


 ただしワイシャツの裾は、ジーパンの中に押し込まれている。


 靴はスニーカー。


 年季の入った……煮込めば良いダシの出そうな、使い古されたスニーカーだった。


 特徴が無いのが特徴と云うか。


 とどめに大きなリュックサック。


 多分、何某かが入っているのだろうけど、ここで問う気にはなれなかった。


 つまり……なんというか……、


「よく気付いたね量子」


 いわゆるアキバ系の装いなのだ。


 今の夏美は。


「まぁ幾ら姿形を変えてもパーソナルデータまでは改ざんできないし」


 ふふんと量子が鼻を鳴らす。


 そんな量子の言葉に恥じ入ったのか、頬を羞恥に赤く染めて、


「ここで見たことは忘れてください。それでは」


 手早く立ち去ろうとする。


「待った」


 僕はそんな夏美を引き留めた。


 正確にはシャツの襟をひっ掴んだのだけど。


「なんですか?」


 不満げな声。


 さもあろう。


 少なくとも、他者にコンタクトをとるための装いではない。


 知人に見られて困るものなのだろう。


「離してください。そしてここで見たことは忘れてください」


「量子」


「あいあい」


「おもちゃ発見」


「だね!」


 量子も了解したらしかった。


「誰がおもちゃです……」


 言葉には棘があったけど、視線には無かった。


 というか色眼鏡してるし。


「じゃあちゃっちゃと行こう」


「行きましょう行きましょう」


 僕は量子の賛同を得ると、


「ほい」


 と夏美の手を取って歩き出す。


「ふやや……!」


 夏美は狼狽した。


 まぁ手を繋いでいるのだから当然か。


 例え、それが想い人でなくとも、異性同士で手を繋ぐのはプレッシャーだろう。


 僕には縁の無い感情だけど。


 そして、ひょいひょいとブランド店の敷居をまたぐ。


「いらっしゃいませ」


 店員が丁寧に接してくる。


「何のつもりですか……?」


 丸メガネ風のグラサンをしている夏美が問う。


「暇潰し」


 そっけなく僕が答える。


「暇潰し?」


「暇潰し」


 ト~トロ~ジ~。


「雉ちゃん!」


「あいあい」


「これとこれとこれ」


「あいあい」


 量子の示した服を手に取って、夏美に押し付ける。


「何これ?」


「服」


 他の何に見える?


「とりあえず着替えた着替えた」


 僕は無理矢理ブランド服を夏美に握らせると、試着室に放り込む。


「あうう……」


 と試着室から、呻きが聞こえてくる。


 気にしない。


 待つことしばし。


 シャッと試着室のカーテンが開かれる。


 現れたのは異国風の衣装を纏った夏美だった。


 ヤドクガエルのプリントされたティーシャツ。


 ダメージジーンズ。


 羽衣を想起させる、半透明のジャケット。


 夏らしい装いだ。


 なお赤い髪と瞳の美少女であるため、夏美には抜群に似合っていた。


「あうう……」


 恥じ入る夏美。


 ちなみにさっきまでの残念な服装は、量子変換されている。


「何のプレイ?」


「まさか。可愛いよ?」


「あうう……」


 やっぱり恥じ入る夏美だった。


 可愛い可愛い。

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