第110話ライブラブ5


「お疲れ~」


 ライブが終わった後、僕と秋子と夏美は、ライブ前にいた喫茶店で、また茶をしばいていた。


「はぁ……量子ちゃんの声って綺麗ですよねぇ」


 赤い瞳をキラキラさせながら夏美。


「まぁアレは天性のモノだからね」


 淡々と。


 本当だ。


 数値を弄って歌を上手くすることも出来るけど、量子に限って言えば、その必要がまるで無い。


 全ては、量子の才能に、由来する。


「量子ちゃん自身も楽しめてるみたいだったから満点じゃないかな?」


 秋子は嬉しそうだ。


「だね」


 僕も同意する。


「春雉と秋子ちゃんはいつも量子ちゃんのライブに行ってるの?」


「今のところ全てのライブをコンプリートしているはずだね」


 見逃してるライブもあるのかな?


 というか、量子が見逃してくれないんだけど。


 何かしらライブがある度に、


「絶対来てね!」


 とチケットを渡してくるのだ。


 なお電子アイドルとして、電子世界でしか活動しないため、距離も時間も関係なく、


「用事があるから行けない」


 なんてこともない。


 というか、先述したように、量子の調整を任されるため、どうしたって捕まってしまう。


 ちなみに、電子アイドルの中には、現実世界でもライブをする類の連中もいる。


 ゴッドアイシステムや、データリアルインタフェースアシストもあるため、しようと思えば量子だって出来るのだ。


 ただ……どうしても電子アイドルを現実で歌わせても薄っぺらくなってしまうというか……背中が寒くなる空気が生じるのは否めない。


 なわけで量子ブランドは、安売りをしない。


 電子世界で出来る最大の演出で盛り上げるのが、量子ブランドだ。


 閑話休題。


「ライブコンプリート? 本当に?」


「まぁ色々ありまして」


 ほけっと。


 茶を飲む。


「いいなぁ」


「多分これからは夏美にもチケット渡してくると思うよ?」


「そなの?」


「だって量子と夏美は友達でしょ?」


「あう……」


 プレッシャー。


 まぁ大日本量子ちゃんと友達と言われれば、詮方無しか。


「少なくとも向こうはそう思ってるはずだけどね」


「シリョーちゃんとしてなら……わかるけど……」


 オーバードライブオンラインね。


「あんな万単位の人たちを沸かせるトップアイドルが身近にいるなんて」


「信じられない?」


「恐縮しきりです」


「良きに計らえ」


 秋子が、テーブルの下で、僕の足を踏んづけた。


 顔色を変えない僕だけど、意図するところは十全に理解する。


「最後の新曲も良かったよね」


 秋子が話題転換。


「切なかったです」


 夏美の言。


「…………」


 何を言うでもなく茶を飲む僕。


 というか、場を乱す言葉しか出そうにないから、黙ってるんだけど。


「イッツソングオブトラジックラブ!」


「それは悲恋の歌……か」


「とても心に刺さりました」


「すごく胸に入り込んできたよね~」


 キャッキャと『届かないあなたに贈る歌』について議論を交わす秋子と夏美。


 それを見ながら、沈鬱を茶と一緒に喉に流し込む僕だった。


 だってさぁ。


 そうでもしないとやってられない。


 と、


「お疲れーっ!」


 と、背後から、突撃抱擁を受ける僕だった。


 声でわかる。


 量子だ。


 お茶はセーフティがあるためこぼれなかったけど、そういう問題でもない。


「店員さん! 私にもローズヒップ一つ!」


 快活に注文して席に着く。


 紫色セミロングの美少女アバター。


 御馴染み……大日本量子の外面用アバターである。


「ライブどうだった?」


「耳が幸せ」


「頑張ったね」


「感動しました」


 三者三様の感想。


「えへへ。私の歌が届いてくれたらいいんだけど……」


 届いてますとも。


「すごく綺麗な声でした。羨ましいくらい」


「褒めすぎだよ夏美ちゃん~」


 とか述べつつ、まんざらでもと云った様子だ。


「雉ちゃん?」


「わかってる」


 阿吽の呼吸。


「今日はどこ行く?」


「お好きな場所へ。決まらないならカイラス山で五体投地する羽目になるよ?」


「じゃ、清水寺に行こうか」


「京都好きだねぇ」


「ま~ね~」


 皮肉の入っていない、皮肉気な笑顔を見せる量子。


「じゃあ行こっか」


「あいあい」


 肯定。


「?」


 夏美がついてこれていないけど、どうせ後で秋子が説明してくれるだろう。


 そんなわけで僕と量子は、リンクから飛んだ。


 電子世界だから、場の移動なぞ一瞬だ。

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