外伝

秋子origin

第124話儚い夢の痕1


「――――!」


「――――!」


「――――!」


 囃し立てる声が、聞こえてくる。


「――――!」


 そして慟哭も。


 子どもは、異端に敏感だ。


 例外であるということは、


「虐めてください」


 と言っているようなもの。


 別段、関係ないのなら、無視してかまわない案件である。


 一々虐めを責めていたら、それだけで一生が潰えてしまう。


 問題は、


「――――!」


 泣いている子が、僕の知り合いってだけ。


 紺青秋子こんじょうあきこ


 幼馴染だ。


 男子に囲まれて、口汚く罵られており、心を痛めて泣いている。


 心的外傷は、出血を伴わない。


 心を傷つけられることで、人生が歪んでも、それを裁判で有罪には出来ない。


 だから、虐めは、タチが悪いのだ。


 結局、責任の所在を定められないため、ひどく個人的な話になる。


 で、僕は、その御守。


「はいはい」


 蹲って泣いている秋子。


 そを取り囲んで、囃し立てる、虐めっ子たち。


 そこに割り込む。


「十分虐めたでしょ? 解散」


 サクッと言ってのける。


 ちなみに素面だ。


 生まれた時からVRオタクであったため、精神的年齢が、同学年の生徒より、老いている僕である。


 そりゃま、ネットの世界に、片足突っ込んでいれば、自然と精神も摩耗する。


 だから、冷静に秋子を助けることが出来るのだけど。


 虐めっ子たちの意識が、こっちに向けられる。


 それを無視して、僕はハンカチを泣いている秋子に差し出す。


「ほら」


「あう……」


 泣き顔のまま僕を見て、


「雉ちゃん……っ」


 また泣く。


 差し出したハンカチは、受け取ってもらえず。


 仕方なく、僕は、自身で秋子の涙をぬぐう。


「また土井か!」


「紺青の夫!」


「そんに紺青が好きなのか?」


 僕まで、囃し立てられる。


「好きならどうかした?」


 さも、


「不可思議」


 と問う。


「変態!」


「褒め言葉と受け取っておこう」


 蹲って泣いている秋子。


 その頭を撫でながら、気楽に言う。


「ほら。秋子も泣き止む。僕だけは味方だから」


「あう……雉ちゃん……」


 ポロポロと、秋子は、涙を流す。


 僕は、そんな秋子を、


「よしよし」


 正面から抱きしめて、後頭部をさする。


「変態だ」


「変態だ変態だ」


 囃し立てるも、


「君らも飽きないね」


 全く痛痒を見せない僕に、


「ちっ」


 と、舌打ちして、去っていく。


「うえええ……うえええええええ……っ」


「いい子いい子」


 僕は、優しく、抱擁してあやす。


「雉ちゃんは……何で……?」


「何が?」


「何で……離れて……いかないの……?」


「あー……」


 答え辛い質問だ。


 穏便かつ秋子を傷つけないよう。


 箸で生卵をつまむ様な、そんな塩梅が必要だ。


「秋子の事が大事だから……かな?」


「でも私は……」


「うん。わかってる」


「なら……!」


 自虐しようとする秋子に、


「でも」


 僕は、言葉で、塗りつぶす。


「秋子の味方になれるなら、あの程度の連中なんて敵でいい」


「私は……私は……」


「大丈夫。僕は味方だから」


「私が……雉ちゃんの足を……引っ張ってる……」


「それでもいいじゃないか。僕と秋子の仲でしょ?」


「雉ちゃんは……それでいいの?」


「むしろ何が悪いの?」


「あうう……あうううう……っ!」


「泣かない泣かない。いい子いい子」


 泣きじゃくる秋子を、あやす。


 そんなのは、いつもの事。


「私も……雉ちゃんが……好き……」


「そっか」


 知ってるけどね。


「とりあえず泣きたいだけ泣いて。涙を全部こぼしたら……その後で優しくしてあげる」


 皮肉のつもりで言ったんだけど、幼い秋子には通じないだろう。

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