第89話あなたは太陽の様で2


 季節は夏。


 地球の地軸の傾きによって、日本には、四季が存在する。


「だから何だ」


 って言われれば、それまでだけど、暑いものは暑い。


 夏季休暇も近づく最中。


 僕はエアコン全開の寝室で微睡んでいて、


「雉ちゃん! 朝だよ! 起きる!」


 毎度毎度、秋子に叩き起こされるのだった。


 ちなみに夏季休暇が近づいてはいるけど、現在の教育では、テストと呼ばれる単位処置は絶えて久しい。


 理由は簡単。


 ブレインアドミニストレータによる量コン化と、ブレインユビキタスネットワークへの接続によって、正確な学力が計ることが困難になったためだ。


「テストを受けるのに、スパコンとネットを使っていいですよ」


 では、テストがテストの意味を為さないのである。


 あえて、テストに出来るモノと云えば、リベラルアーツと体育くらいだろう。


 そして、そんなものは、今現在の人類にとって、毒にもならない。


 閑話休題。


「秋子。コーヒー」


「ホット? アイス?」


「アイス」


「はいな。すぐに準備するからね。二度寝しちゃだめだよ?」


「あい」


 頷いて、フラフラと、ベッドから転げ落ちる。


 のそのそと立ち上がって、ダイニングへ。


「はい。コーヒー」


 アイスコーヒーが、目の前に置かれる。


「あんがと」


 感謝して、ストローでコーヒーを飲む。


 眠気が払拭されるまでは、まだ時間がかかるだろう。


「ん。むにぃ」


 くしくしと目をこする。


「また夜更かし?」


「仕事が入ってね」


「難儀だね」


「…………」


 否定はしない。


 というか出来ない。


 ちなみに今日の朝食は、海苔巻とサラダとフレッシュジュースだった。


「いただきます」


 パンと一拍。


 もむもむ。


「簡素なメニューでごめんね」


 的外れの謝罪。


 当然、秋子のモノだ。


「嬉しいよ?」


 僕は心底そう言う。


「本当?」


「本当」


 またもむもむ。


 中略。


 朝食をとり終えると、僕は瀬野三の制服に着替える。


 秋子は食器の片付け。


 いちいち、紺青さんには、頭が上がらない。


 申し訳ない。


 おじさん。


 おばさん。


 当人が、すすんでやってることは、百も承知だけど――――その根幹にある感情を、僕が、許容できないという点で、万死に値する。


「知ったこっちゃない」


 というのも一つの回答ではあるけど。


 で、準備を終えると、僕と秋子は肩を並べて登校……しようとして、


「今日はサボろう」


 自暴自棄的に、僕は言った。


「駄目」


 けんもほろろな秋子。


「とは言ってもさぁ」


 暑い。


 それに尽きる。


 入道雲を、西の空に見て、太陽の日差しを浴びる。


 焦熱地獄とは、このことだ。


 仏教徒ではないんだけど。


 でも両親ともに、形式上は、浄土宗だし、僕が死んだら、浄土宗で供養されるのだろうけど。


 とまれ、


「クーラーの結界から出たくないよ~」


 というのが僕の本音。


「教室に着けばエアコンが効いてるよ」


 だろうけどさ。


 エネルギー先進国の日本らしい……大盤振る舞いと云ったところだ。


 エントロピーって何だろね?


「あう~」


 焼ける。


 茹る。


「はい雉ちゃん。濡れタオル。首に巻くといいよ」


 当たり前のように、秋子はそう言った。


 手には濡れタオル。


 量子質量変換によるものだろう。


 すでに僕は秋子に支配されている。


「秋子は良いお嫁さんになるね」


 首に濡れタオルを巻きながら、僕は言った。


「雉ちゃんになら……いいよ?」


 さいでっか。


 精神的疲労を覚えながら、夏の熱気にも、うんざりとする。


 早く教室に着きたい。


 クーラーを。


 僕に冷気を。


 それだけが、僕の思念だった。

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