第88話あなたは太陽の様で1


 はふ。


「いいお湯だね」


「だよだよ」


「だぁねぇ」


 僕らは、お湯に浸っていた。


 ちなみに、一人は立体映像なので、入力に出力を返してるだけなのだけど。


 えー……。


 何をしているか、なら、入浴しています、僕ら。


 正確には、僕と秋子と量子とで。


 当然全員全裸。


 元より裸の付き合いなぞ、云うのも馬鹿らしいほど今更だ。


 はふ。


 総一郎くん垂涎の的である秋子の巨乳も、今は僕の胸板に押し付けられて、形を変幻自在に変えている。


 六根清浄六根清浄。


 絶世の大和撫子である秋子と、トップアイドルである量子とで、裸の付き合いはしているものの、


「やっほろ~い」


 という感情より、


「やれやれ……」


 という感情が勝る。


 特に、秋子は生身のため、僕と物理的な接触が可能だ。


 とはいえ、僕も、もう一人の僕も、反応しないんだけど。


 これもまたいつものこと。


「雉ちゃん? 私、魅力無い?」


「んなこたござらんけど……」


 顔立ちの整い具合はアイドルの量子、あるいはデザイナーチルドレンの夏美にも匹敵する。


「秋子は可愛いよ」


 クシャクシャと湯に濡れた黒髪を撫ぜてあげる。


「でも雉ちゃん反応しない……」


「まぁ今更だし」


 本音だ。


 というか、


「秋子がそれを言う?」


 そんな気持ち。


 言葉にはしないけど。


「雉ちゃんは慣れすぎだよぅ」


 これは量子。


 風呂場のへりに、腰かけて言う。


 秋子ほど下品に大きくは無く。


 さりとて夏美ほど残念でもない。


 そんな胸。


 冷静に品評できるほど、思うところは無い。


 ちなみに、我が家の風呂場は広い。


 人間三人程度なら、余裕で入れる。


 金が有り余ってるから、家を改築した結果である。


 とかく、秋子と量子は、僕の肉欲と性欲とを求める。


 量子については解決しているけど、本人は不満の一言。


 どうやら土井春雉では、駄目らしい。


 わかっちゃいるけど、因果だね。


 ていうか、立体映像の癖に「性欲持つな」っての。


「それを雉ちゃんが言う?」


 …………一分一厘……反論の余地がござんせん。


 さてさて、


「アイドルが裸体晒していいの?」


 そんな反撃。


「雉ちゃんにだけだよ」


 恐縮です。


「でもさぁ。一応ゴッドアイシステムとかさぁ」


「私が誰か忘れたの?」


 そうですね~。


「電子犯罪ダメ、ゼッタイ。BANG!」


 指鉄砲を撃つ量子だった。


「雉ちゃんはおっぱい大きいとダメ?」


「ある程度の大きさ以上は下品に映るよね」


「あう……」


 残念そうな秋子だった。


 気持ちはわかる。


 だからフォロー。


「秋子なら問題ないよ」


「じゃあ抱いてくれる?」


 それが無理なのは、百も承知でしょ。


 アタマのズツウがイタい。


 元より、


「そこまで追いつめた元凶が何言ってんだ」


 って話ではあるけどさ。


「割り切るまで待って」


 他に返答のしようもない。


「やっぱり雉ちゃん……」


 だね。


「あうぅ……」


 意気消沈する秋子だった。


「先入観って厄介だね」


 量子が、呆れ混じりに、言ってくる。


「揉みしだくよ?」


 そんな僕の牽制に、


「カモン」


 ノリノリの量子だった。


 アホばっかりだ。


 カポーン。


 とりあえず、浴場の投影機をおとす。


 パチリと消えて、いなくなる量子。


「何するのよぅ……!」


 不平不満を述べる量子のダイレクトメッセージを無視。


 僕は秋子と、ゆったり湯に浸かるのだった。


「雉ちゃん不能?」


 もうそれでいいですよ。

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