第87話傷はまだ瘡蓋残し6


「……っ!」


 タタタタァン、と、連続して銃声が鳴る。


「なんか……その……」


 言葉にならない。


 悪鬼羅刹の如く……問答無用に、敵キャラを銃殺していくミツナ。


 もちろんゲームの世界で、です。


 というか現実でやったら大問題だ。


 オーバードライブオンライン。


 超過疾走システムのアシストも有り、『蹂躙』と云う言葉が、あまりに似合うほどの八面六臂。


 気持ちはわからないでもない。


 オドはVRMMOアクション。


 それも無双ゲー。


 誤解を承知で云うならば、


「大量殺戮を仮想体験できる」


 ゲームだ。


 つまり、


「憂さを晴らす」


 にちょうどいいってことでもある。


「……っ!」


 コスモガンが、休憩も中断もなしに、銃弾をばらまいて、敵を鏖殺していく。


「なんか今日のミツナさん気合入ってるね……」


 空恐ろしさを感じているのはスミス。


 君が原因なんだけどね。


 言わないんだけどさ。


 で、僕ことハイドとコキアとスミスは、後方支援と撃ち漏らしの処理に、徹するのだった。


 シリョー?


 お仕事中。


 銃声。


 銃声。


 また銃声。


 無限の弾を吐き出すマスケット銃で、湧き出る敵の悉くを、銃殺していく。


 まぁそれで心的外傷が、少しでも和らぐなら、それにこしたことはないけど。


「キシャア!」


 此度の異世界エリア。


 群体で襲ってくる、ゴブリンの一匹が、間合いを潰して、ミツナに襲い掛かる。


 が、遅きに過ぎる。


 元よりオドでの雑魚キャラは、超過疾走システムの恩恵を受けられない。


 今後のアプデの予定については知らないので、一時的なモノか恒久的なモノかは……わかんないんだけど。


 そのゴブリンの一体に、隠し持っていたもう一丁の銃を、向ける。


 というか銃口をゴブリンの額に突きつけて、


「…………」


 無情に引き金を引く。


 タァン。


 脳を撃ちやられて、消失するゴブリン。


 クリティカルヒットだ。


「うわぁ」


 その心象は、理解の埒外。


 が、想像できないわけじゃない。


 他者を害することに、爽快感を覚えるのは、人としての機能だ。


 良心の呵責を覚えない人間ほど、その傾向が強まるのは、言わずもがな。


 あるいはゲームと割り切っているのか。


 ゲームを始めた頃は、敵キャラに怯えたり、害することに抵抗を覚えていた……ミツナではあったけど、今はもう、そうではないということ。


 自身の憂さを晴らすために、大量の生贄を必要とする。


 現実世界では不可能であるから、ゲームの世界で。


 そしてオドは、その環境を用意してくれる。


 であるため、ミツナの銃声は鳴りやまない。


 殺して、殺して、殺しつくす。


 衝動のままに。


 背中を押されて。


「何かあったのか?」


 僕にボソリと尋ねてくるスミス。


「まぁままならないこともあるよね」


 それが僕の答えだった。


 そしてほとんどの雑魚キャラを銃殺して、クエストフィールドを進めば、ボスフロア。


 ボスは青い巨人だった。


 禿頭に棍棒。


 いわゆるトロール。


「手ぇ貸そうか?」


 僕が提案すると、


「必要……ありません」


 ギラついた目で、トロールを捉えて、けんもほろろ。


 そして加速。


 まるで疾風だ。


 トロールも、超過疾走システムの恩恵を受けてはいるけど、ブーストの度合いが違う。


 連続して銃が吠える。


 繰り出された弾丸は、正確にトロールを撃ち貫く。


「グギャア!」


 吠えて、棍棒を振り下ろすトロール。


 それを紙一重で躱して、トロールの棍棒の上に足をやるミツナ。


 そのまま棍棒……腕……肩へと身を移し、トロールの頭部に零距離射撃。


 後に離脱。


 跳躍によって高く高く跳び(超過疾走システムのアシストによって何倍もの高度を……である)土産に銃弾を、数十発、更に埋め込む。


「ギギャア!」


 吠えるトロール。


 ターゲットは、ミツナだったけど、相手になるわけもなく。


 修羅の如き、超過疾走するミツナと銃弾の前には、有象無象の一つでしかなかった。


「うーん……」


 荒れてるなぁ。


 それが、僕の率直な感想だった


 鬱憤が晴れるなら、それはそれでよかろうけど……。


 結局このフィールドは、ミツナの独壇場だった。


 トロールさんに合掌。

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