第106話ライブラブ1
「ダムダムショット!」
そんな宣言と共に、銃スキルにしては珍しい、貫通力の無い攻撃が、銃口から発射される。
無論、ダムダム弾が、スキル名の由来だ。
まぁゲームに本物の銃の知識を持ちこむのは野暮だけど、本来、銃弾(フルメタルジャケット辺りが妥当か)と云うのは、人体なぞ容易く貫通する。
が、それはつまり【貫通するだけのエネルギー】が、まだ余剰エネルギーとして残っていることを意味する。
特に対象との距離が遠いほど、銃弾はライフリングを安定させ、より高度な貫通力を持つ。
それとは真逆を実現するのが、ダムダム弾……ひいてはホローポイント弾だ。
つまり『銃弾の変形あるいは破壊を起こしやすくする』という機能を植え付け【貫通するだけのエネルギー】を余さず、人体破壊エネルギーに転化させようというもの。
ダムダム弾の方は、あまりに強烈過ぎて、現実世界では使用禁止の布告が出たけど、ホローポイント弾はストッピングパワーの一端として、警察機構にも採用されている。
閑話休題。
ミツナの撃ったダムダムショットが、北極エリアのクエストフィールドのボス……ホッキョクグマに食い込んで、ヒットポイントを零とする。
フェードアウトするボスキャラ。
クエストクリアの文字が、視覚モニタに映って転移。
僕らイレイザーズは、北極の非戦闘区域に身を置き、それからティータイムに洒落込むため、妖精郷エリアへとさらに転移。
データ上のお茶を飲んでまったり。
相も変わらず、スミスはコキアにすり寄っていたけど、最低限の愛想でコキアはそれを躱す。
僕は僕で、素知らぬ顔。
紅茶を飲む。
まぁ人それぞれということで。
ピコンと音がした。
エリア全体に響いたわけじゃなく、僕個人に対する電子音だ。
ダイレクトメッセージ。
発信者と受信者にしか見ることのかなわない、秘密の文章。
発信者はシリョー。
つまり量子だ。
「オドをログアウトしたら、こっちのアドレスに飛ぶこと」
と三次元アドレス付きで指示される。
「なして?」
「ひ・み・つ」
ウザい。
それが率直な感想だった。
ともあれ今日も終わろうとする時間。
夏季休暇の日々だから、徹夜でネトゲしてもいいんだけど、寝落ちするのもなんだし……というかシリョーのダイレクトメッセージが気になって、僕は解散を提案した。
で体よく解散。
スミスだけは、オドに残ったまま、本来のギルドに合流するみたいだけど、まぁその辺のことは僕の興味埒外。
オド……オーバードライブオンラインをログアウトして、電子世界に浮いている自身のアバター(ちなみにオドと同じ白髪赤眼の美少年のソレだ)を自認した後アドレスに飛ぶ。
プライベートルームだ。
それは既に確認しているため、別に驚くことでもない。
まさか量子が僕に害なすなぞ、マタンゴの存在より有り得ないけど、こういう警戒は常に必要だ。
で、飛んだ先のルームには、赤いロングヘアーの巨乳美少女と、青いロングヘアーの巨乳美少女がいた。
「あら?」
そちらについては予想外。
しかし、どちらも見た覚えのあるアバター。
当然だ。
さっきまで見ていたのだから。
赤い美少女アバターは夏美。
青い美少女アバターは秋子。
オドでのミツナとコキアだ。
「君たちも呼ばれたの?」
「ということは雉ちゃんも?」
「うん。まぁ」
「全員揃ったね」
こんどは、ブラックセミロングツインテールの、美少女アバターが現れる。
国家的アイドル……大日本量子ちゃんその人だ。
ここは外界(電子世界に外界という概念があるのかという議論はともあれ)と隔離されたプライベートルーム。
変装の必要が無いということだろう。
「うん。イレイザーズ勢揃い」
しきりに量子が頷く。
「総一郎はいないよ?」
至極真っ当な指摘をすると、
「数に含まないでしょ?」
至極あっさりと返される。
哀れなり総一郎。
多分ここにいる全員の心象ではあろうけど。
特に秋子。
「で? 何の用?」
「雉ちゃんたちは夏季休暇に入ったでしょ?」
学校も勉強も無い妖怪とは違って、真っ当な人間にはしがらみがある。
けっして量子を妖怪呼ばわりしているわけではないけど、実体が無いという意味では五十歩百歩……なのかな?
「だから今日はこれを渡そうと思って」
そう言って、データ上のメッセージが送られる。
チケットだ。
「こんどライブやるから。その特等席」
ルンと声を弾ませて量子。
「タダでもらっていいんですか?」
「もちろん。私たち友達でしょ?」
転売したら幾らになるかな?
そんな皮算用。
半眼で量子が睨んでくる。
「……雉ちゃんの考えることは読めるよ?」
「むぅ」
恐ろしい奴め。
「大日本量子ちゃんの夏季ライブの特等席……!」
「最高のショーにしてみせるから楽しみにしててね?」
「はい!」
夏美は興奮して首肯した。
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