第83話傷はまだ瘡蓋残し2
「駄目なことしちゃ駄目だからね!」
そんな秋子の声に引っ張られながら、僕は外出した。
隣には量子。
ただしアバターは、紫髪のセミロング美少女のそれ。
プライベートにおいては規制が緩くとも、対外的において二次ェクトは、ある程度規制されている。
別にそれが理由じゃないんだけど、ブラックセミロングツインテールの『大日本量子ちゃん』アバターで注目を集めるのは心臓に悪い。
そんなわけで、立体映像らしく、簡潔に描写を変更してのデートだ。
まぁ電子犯罪に目を瞑ってもらえているから、これくらいの返礼は良しとせなばならないだろう。
無論、好意と云う面も無きにしはあらず……ともいうけどね。
「じゃあどこ行く?」
「モール!」
百貨繚乱ね。
そっちに向かって歩き出す。
「ところで雉ちゃん?」
「何でっしゃろ?」
「夏美ちゃんの件はどうなったの?」
「一応フォローはしたけど結果自体は知ったこっちゃないなぁ」
本音だ。
多分恨まれているだろうけど、損得感情のソロバン弾くまでには至らない。
「ふぅん?」
どこか探るような量子の言。
「じゃあ夏美ちゃんを気に入ってるとかは無いわけ?」
「そりゃ超絶美少女だし、睦言を囁かれたら、僕とて平静ではいられないと思うけど」
「むぅ」
量子の気持ちも、わからないではない。
そもそもにして、秋子と云う強力なライバルがいるのだ。
この上、夏美まで参戦されることは避けたいのだろう。
ありえないけどね。
元より恨まれて何ぼの身だ。
良く言って馬鹿。
悪く言って悪者。
少なくとも先日の夏美の罵倒は、本心からだろう。
一分たりとも気にちゃいないけど、それ故に夏美が僕に心を仮託するのは有り得ない。
多分。
そんなこんなで百貨繚乱。
大型ショッピングモールに着く。
さて、
「どうする?」
問う僕に、
「とりあえずお茶」
妥当な提案。
モールに展開されているコーヒースタンドに入って、僕はコーヒーを頼む。
量子はコーヒーとケーキ。
ただしデータ上の。
元より立体映像なのだから、当然っちゃ当然。
ネットマネーで支払って席に。
「ん。上々」
コーヒー(データだけど)を飲んで量子が論評。
「値段相応には美味しいね」
僕も諸手は挙げないけど、評価はする。
「この後どうする?」
「うーん。夏用の服を見てまわりたいな」
「立体映像が何を言うか」
なんて思ったけど言葉にしないだけの分別は持っている。
元より、量子は着飾らなくとも、十分に可愛い。
それも口にはしないけど。
調子づかれても困るし。
「雉ちゃんの服も見繕ってあげる」
「そりゃ光栄で」
皮肉気に笑ってしまった。
それからスタンドでまったりした後、僕と量子は、モールの服飾コーナーを回る予定を立てた。
そしてその通りに行動する。
「これどうかな?」
ブランド服を試着して、量子が問う。
「僕はこういうことに疎いからなぁ……」
本音全開。
「可愛いの是非を問うてるの!」
「地が良いから何着ても似合うと思うけど」
「あう……」
照れ照れ。
一丁前に量子が照れる。
こういうところは可愛らしい。
「似合ってるの?」
「まぁ可愛いとは思うよ?」
「本当に?」
「嘘でもいいけどね」
肩をすくめてみせる。
「淡白……」
「自覚はあるよ」
元より眼の良い方ではない。
それから二、三の服飾店を回って、量子と議論しながら、服を購入していくのだった。
「じゃ、次は雉ちゃんの番ね」
「本当に買うの?」
「任せて」
別に着られれば、何でもいいんだけどな。
「お金は有り余ってるし」
「立派なヒモだなぁ」
心底そう思う。
「じゃ、とりあえずセレクトショップに行こうよ」
「あいあい」
反論するのも億劫で、僕は量子につき従った。
オシャレに関してなら、量子の感性に任せて大丈夫だろう。
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