第121話乙女心は麦の様で4


 三番目。


 量子とのデートだ。


 多分に不義理だ、と思って僕は切り出した。


「あのさ……量子……」


 けれども、言葉にするより早く、


「言わなくてもわかってる」


 量子は苦笑した。


「夏美ちゃんと、相思相愛なんでしょ?」


「わかる?」


「雉ちゃんのことなら何でも」


 そっか。


「もとより勝ち目は薄いしね」


「そんなことは……」


「無いと思う?」


「…………」


 沈黙以外に、選べる選択肢がない。


「どうせ私はデータ上の存在だから」


 量子は、苦笑する。


 紫色の髪が、揺れる。


 憂いに。


「でも聞きたいな」


 何を?


「どうやって、雉ちゃんと夏美ちゃんが、仲良くなったか」


「量子のおかげだよ」


「私の?」


「うん」


 コックリ。


 僕は頷いた。


「私なんかが何かしたっけ?」


「総一郎の本音を、夏美に叩きつけたでしょ?」


「ああ」


 納得したらしかった。


「でもそれとこれとがどう繋がるの?」


「ちょっと傷心中の夏美を慰めたら、好意を持たれたってだけ」


「そっかぁ」


「然り」


 と頷く量子だった。


「ちょっと安易だったかな?」


「量子にしてみればそうだろうね」


「秋子ちゃんには話したの?」


「泣かせちゃったよ」


「秋子ちゃんならそうだろうね」


 カラカラと、量子は笑った。


「量子は泣かないの?」


「泣きたいよ」


 そっか。


「すごく泣きたい」


「…………」


「とても泣きたい」


「…………」


「でも」


 でも?


「雉ちゃんを困らせたくない」


「……っ!」


 僕は反射的に、量子を抱きしめていた。


「雉ちゃん?」


「僕なんか関係ないよ……!」


「雉ちゃん?」


「僕になんか思案する必要はないよ」


「雉ちゃん?」


「僕を慮る必要はないよ」


「雉ちゃん?」


「泣いていいのさ」


「…………」


「裏切り者って。悪者って。私の気持ちを踏みにじってって」


「出来ないよ……」


「そうしなきゃいけないんだよ。量子は」


「だって……雉ちゃんを困らせたくない……!」


「困ったりなんか……するもんか……」


 そう。


 有り得ない。


 僕が量子の不満に、辟易するなんて、有り得ない。


「だから」


 だから……!


「言いたいことを言って良いんだ。応えることは出来ないけど……僕は甘んじて受けとめるから」


「う……う……うえ……」


 ポロリと……量子の瞳から……涙が溢れた。


「大丈夫」


 僕は言を紡ぐ。


「何を言われたって、僕が量子を見限ることはないから」


「雉ちゃんの馬鹿ぁ……!」


「ああ、馬鹿だ」


「私の気持ち知ってるくせに……!」


「うん。知ってる」


「雉ちゃんなんて……」


「大嫌い……かな?」


「大好きだよぅ!」


「ありがとう」


「うう……うう……っ!」


「ありがとね量子」


 僕をそんなに思ってくれて。


「私だって雉ちゃんの事大好きだよぉ!」


「うん」


 きっと始まりが、間違ってた。


 だから、これは僕の業だ。


 そうである以上……受け止めるの当然のことで、単純なことだったのだ。

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