第120話乙女心は麦の様で3


 二番目。


 秋子と、夏祭りを回る僕。


「雉ちゃん。あーん」


 そして、たこ焼きを差し出してきた秋子に、


「あーん」


 僕は、口で迎える。


 夏美との時間で、たこ焼きは食べたけど、


「まぁ秋子だから」


 と云う理由で、僕は受け入れた。


「美味しい?」


「ジャンク独特でね」


 そもそも、美味さを競うモノじゃない。


「じゃあ今度の御飯はたこ焼きにしようか」


「別に僕は反対しないけど」


「ん」


 コックリ。


「なら良かったよ」


 ニコリと、秋子は、笑った。


「あー……」


 どう切り出したものか。


「雉ちゃんはさ……」


「何でがしょ?」


「やっぱり私のこと……」


 僕は、


「うん。まぁ」


 それ以上、言わせない。


「じゃあ量子ちゃんに傾倒するの?」


「量子はアバターだからなぁ」


「じゃあ夏美ちゃん?」


「うん」


 率直な肯定。


「え……?」


 秋子は、ポカンとした。


「えぇ?」


 現実を、現実と、処理できないらしい。


 深刻なシンタックスエラー。


「雉ちゃん……?」


 気持ちは想像がつく。


 理解は出来ないけど。


 今、秋子の感情は、ヘドロをかき混ぜているような、ソレだろう。


「夏美ちゃんが好きなの……?」


「というか付き合ってる」


「いつから!?」


「数日前から」


「本当に……?」


「嘘でもいいけどね」


「雉ちゃん……」


「…………」


「遠くに行っちゃうの?」


「精神的にはね」


 少なくとも、今のままでは、いられない。


「雉ちゃん……」


 ポロリ。


 秋子の瞳から、涙がこぼれた。


「ごめん」


 それしか言えない。


「私じゃ駄目なの?」


「ごめん」


「いつも一緒だったじゃない……!」


「そうだね」


「いっぱいご飯作ってあげたじゃない……!」


「そうだね」


「いっぱい掃除したし……いっぱい洗濯したよ……!」


「そうだね」


「雉ちゃんは、そんな私を見捨てるの?」


「むしろ、それを盾に迫る方が、どうかと思うよ」


 あえて厳しい言葉を放つ。


「私は雉ちゃんが好き……!」


「僕はそうでもないなぁ……」


「私は雉ちゃんを愛してる……!」


「有難くはあるけどね」


「私だけが雉ちゃんを理解できる……!」


「それは傲慢って言うんだよ」


「でも……!」


 それ以上は、聞いていられなかった。


 だから、僕は、秋子の唇を塞ぐ。


 自身の唇を以て。


 キス。


 それは所謂一つの。


「雉……ちゃん……」


「秋子は僕を恨んでくれていい」


「……出来ないよ」


「秋子は僕を憎んでくれていい」


「……出来ないよ」


「秋子は僕を悔んでくれていい」


「……それで雉ちゃんはいいの?」


 僕は……、


「僕は……秋子の憎悪悔恨を受け止めるべき存在だ」


「無理だよ……。雉ちゃんを憎悪するなんて……」


「ん。ならよかった」


 微笑んでしまう。


 それは、あるいは苦笑かもしれなかった。


「雉ちゃん……?」


「何?」


「私の手の届かない所には行かないで」


「見限ってくれていいんだよ?」


「無理だよ……」


 鬱屈した言葉で、秋子は紡ぐ。


「恐悦至極」


 何で、僕は、こんなに不器用かな。


 自分で自分に、腹が立つ。

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