第119話乙女心は麦の様で2


 さて、


「うーん」


 時間は、午後七時。


 各々で(とは言っても、僕と秋子と量子は同じ空間で)夕食を取り、セカンドアースの夏祭りに乗り込む。


 人混みは最高潮。


 ちょっとばっかし、今回の夏祭りの名は重い。


 午後九時からは、一万発の花火の打ち上げがある……ということも大きい。


 つまり盛り上がっているのだ。


 電子世界とはいえ、出店の数は数百におよび、招かれたわけでも無い客は、数万に及ぶ。


 頻繁に外国人を見かけるのも、セカンドアース故だろう。


 いわゆる、


「日本カルチャー」


 を体験するに、


「日本の夏祭りが性に合う」


 ということ……なのかな?


 セカンドアースならば、距離は障害にならないし。


 そして、


「皆で祭りを回るんですか?」


 クネリと夏美が、首を傾げる。


「本当は私と雉ちゃんだけで回るつもりだったの」


 これは量子。


「そんなこと許されるはずがないでしょ」


 これは秋子。


「…………」


 夏美が、ジト目の視線を、僕に送った。


 ハンズアップ。


「じゃあ九時の花火までは、三十分交代で、春雉と二人きりで一緒に回るというのは?」


 否定的意見は、出なかった。


 順番は話し合いで決められ、一番目が夏美、二番目が秋子、三番目が量子となった。


 で、一番目。


 僕と夏美は、いか焼きを食べながら、肩を並べて、祭りを楽しんでいた。


「まだ秋子ちゃんや量子ちゃんには言ってないんですか?」


「まぁね」


「キープ?」


「そういう人間に見えるのか……」


「見えませんけど」


「ならよかった」


 いか焼きを、もむもむ。


「もしかして……」


「その通り」


「ですか」


 阿吽の呼吸。


「当人を前にした方が良いでしょ?」


「そこに否やはありませんけど」


「なら良かれ」


 そして僕と夏美は、本格的に、祭りを楽しむ。


「春雉。射的やりませんか?」


「ガンリアーのミツナの方が向いてるんじゃない?」


「オドは自動補正がついてますし」


「違いない」


 苦笑してしまう。


 そして僕と夏美は、射的で遊んだ。


 これが中々に難しく、僕も夏美も、あまりコルクの弾を、当てられなかった。


 結局、取れたのは、キャラメルだけ。


 データ上のそれを、口に含んで噛む。


「これでよかったんでしょうか……」


 鬱屈して、夏美が呟いた。


「何が?」


 わかってはいたけど、聞いてみる。


「こうやって春雉の恋人になって、故に、わかります。秋子ちゃんも……量子ちゃんも……春雉の事が本当に好きなんだなって」


「それは夏美も同じでしょ?」


「けれども重ねてきた年月が違う」


 …………。


「私は失恋した私を慰めてくれた春雉を好きになっただけ。でも秋子ちゃんや量子ちゃんは春雉の幼馴染。思い出も……思い入れも……私のそれとは比べられる事さえ出来ない……そう思います」


「ふーん」


 あえて僕は、切って捨てた。


 言いたいことは、よくわかる。


 言ってる内容も、吟味に値する。


「でもさ」


 それでも、追い詰めることしかできない自分が、少し悲しい。


「僕の夏美への慕情も……無視するわけ?」


「そういう意図はありませんが」


「ならいいじゃん」


「良くありませんよ」


「そなの?」


「そうですとも」


 コックリ。


 そ~なのか~。


 出店で買った、たこ焼きを食べる。


「ま、麻疹みたいなものだよ」


 たこ焼きを食べながら僕。


「一過性のモノで、その内、気にならなくなるさ」


「だといいんですけど……」


「信じられない?」


「というより後ろめたいです」


「じゃあ解消してあげよう」


「どうやって?」


「……っ!」


「っ!」


 僕は強引に、夏美にキスをした。


「解消できた?」


「むしろ罪悪感が増しました」


「ううむ。乙女心は難しいね。僕のキスは甘くなかったのか」


「ソース味でした」


 たこ焼き食べてるしね。


 そして僕と夏美は、クスクスと笑い合った。

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