第66話コの字デート3


 で、


「なんでこ~なるのっ!」


 僕は、布団の取り除かれたベッドの上に寝転んでいたのだけど、その隣には秋子がいて僕の片腕に抱き付いている。


 ムニュウ。


 フニュン。


 六根清浄六根清浄。


「これくらいの役得はないと、ね?」


 なにが、


「ね?」


 なのさ。


 懇々と問い詰めたいけど、乙女心パワーは無敵だ。


 そのフィルターは、あらゆる不利条件を却下する。


 じゃあ秋子が乙女かと云うと、ややも微妙なラインなのだけど。


 その辺りを語ってもしょうがないから、


「やれやれ」


 僕は秋子の押し付けてくる胸を堪能しながら、セカンドアースに意識を移す。


 総一郎の指定してきたアドレスに飛んで、プライベートルームに顔を出すと、既に総一郎と夏美はいた。


 総一郎は金髪碧眼の西洋風美少年アバター。


 夏美は赤い長髪に赤い双眸の美少女アバター(ただし胸の大きさは現実と比較して涙を誘う仕様)。


「よ。春雉」


 総一郎はアバターでも爽やか少年だった。


「秋子さんは?」


「もうすぐ来るよ」


 次瞬、


「お待たせしました」


 青い長髪に青い双眸の巨乳美少女アバターが現れた。


 セカンドアースおよびオーバードライブオンラインで、秋子の用いるアバターだ。


 それを言ったら、ここにいる四人(四体?)は全員がそうなのだけど。


 僕?


 無論僕もだ。


 白い短髪に赤い双眸のアルビノ美少年アバター。


 そして現実が悲しくなる程度には細マッチョ。


 どうせ春雉がいるんだし、僕としてもフィジカルを鍛える余裕はあるんだけどね。


 生来のものぐさが影響して、いつも机上の空論にしかなっていないのだった。


 無念。


「じゃあ揃ったね」


「です」


「何処に行く?」


 総一郎は積極的に仕切ってきた。


 さすがにコミュ力の高いスクールカースト最頂上美少年は経験値が違うぜ。


「なにかリクエストある?」


「カイラス山の周囲を五体投地!」


「あ、それ引っ張るんだ」


 秋子の悲しいツッコミ。


「却下」


 無下にされた。


「なんで!」


「なんでって……」


 僕の抗議に、総一郎が困惑する。


「そういうのはチベット仏教徒に任せてればいいでしょ?」


「いいよ。チベット仏教。ロマンがあるよ?」


「そう思ってるのは春雉だけだ」


 そなの?


「うんうん」


「うん……」


 秋子と夏美も総一郎に同意していた。


 四面楚歌だ。


 一面足りないけど。


「はい」


 これは秋子。


「何でしょう?」


 これは総一郎。


「出来れば国内が良い」


「でっか」


 頷かれる。


「じゃあ日本国内でってことで。となると……」


「富士山登頂! 御来光を見よう!」


 これは僕。


「時間的に無理でしょ」


 は。


 盲点だった。


「夏美さんは行きたい所ある?」


 今まで黙っていた夏美に、声をかける総一郎。


 こういう気配りは、さすがにスクールカーストの高位者だと思わせる。


「私……ですか……」


 照れ照れ。


 総一郎に気を使われて、喜んでいるのだろう。


「気持ちはわかる」


 とは言わないけど、想像くらいは出来る。


「私は総一郎くんの行きたいところでいいです」


「そ」


 簡潔に一つ頷くと、


「じゃ俺が決めて良いのな?」


 グルリと他三人を見やって、無言の承諾を得ると、


「了解した」


 と納得。


「日本でデートできる場所って言うと……」


 総一郎はイメージコンソールを呼び出して(電子世界ではわけもない)色々と操作しているようだった。


「じゃ、新宿をブラリとしようか」


 ま、


「妥当な落としどころだろう」


 そう思う。


 そしてコンタクトを確認受諾して、僕たちはセカンドアースの新宿に跳躍するのだった。

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