第112話届くあなたに贈る歌1


 オーバードライブオンライン。


 略称、オド。


 VRMMOアクション無双モノ。


 その爽快感故に、ハマる奴は幾らでもハマる。


 なにせ、現実では再現できない「虐殺」と云う仮想体験が出来るのだ。


 それだけがゲームの魅力ではないけど、そうであることも魅力の一部と云うことで。


 春。


 瀬野三……瀬野第三高等学校に無難に進学した僕は、そこで信濃夏美と出会い、オドを教示することになった。


「好きな人と共通の趣味を持ちたいがため」


 ま、結局破綻したんですけどね~。


 で、その信濃夏美さんはと云えば、恋愛事情が破綻しても、なおオドを続けた。


 イレイザーズと呼ばれる、即席ギルドに所属して。


 ひょっとしてマゾ?


 そんなことを思う。


 どうでもいいですね。


 はい。


 ゲームを楽しんでいるなら、純粋に歓迎すべきことだとしても、


「今日の夏美……アバター名ミツナは明らかに変」


 そう言わざるを得ない。


 何せ、


「…………」


「何とぉー!」


 急に考え込んで、攻撃の手を止めるのだ。


 ちなみに後者は僕の驚愕(フォロー付き)。


 ミラクルレアアイテム短刀グラムの持つ固有スキル……フォトンブレード。


 ビームサーベルみたいに、光子フォトンの刃で、短刀の刀身を伸ばし切り裂く。


 刀身の射程に制限は無いけど、刀身を伸ばせば伸ばすほど、攻撃力が落ちていく仕様。


 だいたい攻撃力と射程の妥協点は、五メートルと僕は認識している。


 というかラックガン上げのクリティカルヒットを前提とした僕のステータスでは、一般的な攻撃はそう強くない。


 つまりフォトンブレードを伸ばして一掃しようにも、出来ないのが現状だ。


 モンスターには、クリティカルポイントというものがある。


 頭部。


 頸部。


 心臓。


 手首。


 この四ヵ所だ。


 心臓や手首はともあれ、頭部や頸部は人型であれば固定されているので、纏めて薙ぐのは難しくない。


 で、閑話休題。


 急に黙って、銃を撃つのを止めたミツナのフォローに、僕は入る。


 雑魚キャラを千切っては投げ千切っては投げ。


 斬殺戮を具現する。


 元がVR適正の高い僕だ。


 この程度は造作もない。


 現実ではゲームマニアのもやしっ子なんですけど。


「ミツナどうしたの?」


 あらかた付近の雑魚を切り滅ぼして、残った残党はコキアとシリョーとスミスに任せると、僕はミツナに声をかけた。


「…………」


 ミツナは半眼……というかジト目になった。


「何よ?」


 恨まれることでもしたかな?


「別に何でもありません」


「集中欠いていて、それを言う?」


「足を引っ張っているみたいですね」


 忌憚なく言えば。


「はぁ」


 嘆息されてしまった。


「僕が悪いの?」


「忌憚なく言えば」


「自覚無いんだけど」


「認識させた覚えもありませんし」


「もしかして僕って悪者?」


「そうとってもらっても」


「ううむ……」


 何だかなぁ。


「ハイドが気にする必要はありませんよ」


「逆の立場で考えて納得できる?」


「出来ます」


 出来るんかい。


 そんなことを言い合ってるうちに、ボスキャラ登場。


「私のことは放っておいてハイドもボスキャラに向かってください」


「大丈夫でしょ。このフィールドの推奨レベルはせいぜい50。シリョーとスミスに任せておけば万事大丈夫」


「ですか」


 です。


「で?」


「とは?」


「何の悩み?」


「言う必要がありますか?」


「気になっただけではあるんだけど」


「でしたら気になさらないでください」


「僕に不満があるなら幾らでも受け付けるよ?」


「…………」


 ボソッとミツナが何かを呟く。


 あまりに小さい声故、聞き逃す。


「何て?」


「特に何も。それよりお願いしたいことがあるんですけど」


「何でも言って御覧じろ」


「それについては後で提案させていただきます」


「今じゃ駄目なの?」


「というわけでもありませんけど……」


 ジャキッと銃を構えて、


「ダムダムショット」


 と銃を撃つミツナ。


 超過疾走システムの恩恵によって、超音速の十倍の速度で、銃弾が発射される。


 それは確実にボスキャラを捉えた。


「ちょっと厚顔なお願いなのでもう少し時間が欲しいです」


 さいでっか。

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