第113話届くあなたに贈る歌2


 そんなこんなで、クエストをクリアすると、今日は解散と云うことになった。


 夏季休暇中だ。


 威風堂々と昼間にプレイして、今は夕方の食事時。


 スッと目を開く。


 僕は、我が家のベッドに寝ていた。


「あ、雉ちゃん起きた」


 隣には秋子。


 艶々の黒髪に、黒真珠の瞳。


 柔和なのは視線だけでなく、その美貌にまで至る。


 日本美人の集大成が、そこにはいた。


 僕の腕に抱き付く形で、僕のベッドに寝ている。


 その腕に押し付けられたフニュンとした感触は、幸せ以外の何物でもない。


 それに憧れて、墨洲総一郎あたりが湧くんだけど。


 とまれ、


「…………」


 僕はムクリと起きる。


 ガシガシと頭を掻いて、意識のピントを現実に合わせる。


「雉ちゃん。夕ご飯は何が良い?」


「あんまり食欲ない」


 夏バテ。


「じゃあ冷麦とかどうかな?」


「ああ、いいね」


 それくらいなら入りそうだ。


 とかく日本食は胃に優しい。


 百億人の中の一億人。


 日本人に生まれるには、百分の一の可能性に賭けねばならない。


 で、日本人に生まれた以上、胃に優しい日本食を摂取するのは、特権だろう。


 ちなみに三分の一の確率で、中国かインドに生まれるのは……何だかな。


 ちょっと話を曲げて。


 インドのカーストは、前世の善行によって、階位が決まるという。


 インド人に生まれなかった者は、カースト外であるため、皆々最底辺。


 いったいインド人以外の各国民は、どんだけ悪い奴だったんだ。


 そんなことでは、地球に秩序なんて生まれていないと思うんだけど、どうでしょう?


 閑話休題。


「じゃあ夕ご飯の準備するね」


「ついでにお茶」


「わかってる」


 軽やかにウィンクする秋子。


 こういうところは可愛らしい。


「ちなみに何のお茶が良い?」


「ほうじ茶」


「あいあい」


 そしてパタパタとキッチンに消えていく。


「やれやれ」


 僕は寝室を出ると、リビングに向かった。


「雉ちゃーん!」


 美少女が突撃してきた。


 アシストを使って、美少女の額に手を押し付けて、突撃を止める。


 突撃。


 後の抱き付きを敢行しようとした、美少女は不満そうだ。


「何でよぅ!」


 こっちのセリフだ。


 不満そうな美少女……量子に僕は問う。


「で、何の用?」


「用が無きゃ愛に来ちゃ駄目なの?」


 微妙に誤変換を聞いた気がするのは……錯覚だろうか?


「とは言わないけどさぁ」


 いい加減、自身の立場を理解してほしい。


 僕に言えたことじゃないから、口にはしないけど。


「さて」


 再び閑話休題。


「何の用?」


「私アニメ声優になるよ!」


「はあ……」


 そうですか。


「反応薄い……」


「どっかからオファー来たの?」


「うん。新約オバンゲリオンの、追加ヒロインの声に大抜擢」


 見得を切った量子の背後で、パパパァンと赤青黄色の爆発煙幕が上がる。


 こういう時は、立体映像って便利ね。


「オバねぇ」


 まぁアニメの金字塔ではある。


 そもそもにして夏美の勧めで見ていた、ということもある。


「まぁ頑張れ」


「リアクションが希薄だよぅ!」


「何と言えと」


「愛してるよ、とか?」


「因果律が滅茶苦茶なんですけど」


「まぁ冗談はともあれ」


 本当に冗談なのかな?


「一応追ってはみるけどさ」


「まだ開示されてない情報だからね。ブログにでも書けば? 炎上間違いなし!」


 たしかに『ジキルのお部屋』は運営してるけど……。


 かといって、そこまで知名度を得る必要も無いんだけどな。


「あ、量子ちゃん」


「はろはろ秋子ちゃん!」


「雉ちゃん……はいお茶。量子ちゃんも飲む?」


「うん。お願い!」


 コックリと。


「ちなみに夕御飯は?」


「冷麦だよ」


「私の分も!」


「はいはい」


 朗らかに笑って秋子。


「罪な人だね」


 量子は、キッチンに消えていった秋子を見ながら、ニヤリと笑った。


 知ってます。

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