第98話あなたは涼風の様で5


「きーじちゃん」


 ルンと声を弾ませて、秋子が近づいてきた。


 今期のロングホームルームも終わり、後は帰宅するだけだ。


 時間は正午。


 昼食どき。


「デートしよ?」


「構やしないけどさ……」


 どんだけ春雉スキーなんだろ?


 ピクリと、隣が震えるのがわかった。


 その因果までは、知らないけど。


「どこ行く?」


「百貨繚乱でいいんじゃない?」


 定番と云うか鉄板と云うか。


「夏美は?」


 僕は、隣の席のクラスメイトに、話題を振る。


「え? 私ですか?」


 目と口で、三つの円を作って、夏美。


 赤い瞳が、こちらを捉える。


「そ。一緒にいかない?」


「でも春雉は秋子ちゃんとデートするのでしょう?」


「だね」


「だよ」


 秋子は、ソレと悟られない程度に、ジト目だった。


 長く付き合っている僕が、かろうじてわかる程度。


 つまり僕への非難だ。


 知ったこっちゃござんせんが。


「でもお邪魔じゃ……」


 狼狽える夏美は、趣があったけど、それはともあれ、


「いいよね? 秋子?」


 ニッコリと笑ってあげる。


 何が効くって、秋子には、僕の笑顔が一番効く。


「あ……」


 とか、


「う……」


 とか唸った後、


「あ・き・こ?」


 念を押す僕に、カクンと項垂れて、


「はい」


 と肯定する。


 うん。


 司法取引成立。


 ルンと、僕が踊る。


 実際ではなく、心臓がね。


「二股デートですか?」


 確認するような夏美に、


「多分違うと思うな」


 スケジュールで予定を確認しながら、僕が言う。


「さて、とりあえず昼食をとろうか。何が食べたい?」


「私は……何でも……」


「雉ちゃんの食べたいものでいいよ?」


 主体性ないなぁ。


「じゃあ寿司!」


 今決めた。


「回る方の?」


「回らない方の」


「あの……さすがにそんなことは……」


「大丈夫!」


「何が?」


「僕のおごりだから」


「それはそれで心苦しいんですが……」


「とりあえずランドアークを捕まえよっか。話はそれからだね」


「はいな」


 肯定する秋子に、


「えぇぇ?」


 困惑する夏美。


 そんな二人の手を取って、僕は歩き出す。


 人気ある女生徒の双璧と、手を繋いでの下校。


 そりゃ、もちろん衆人環視の視線が痛いわけで。


 気にしてもしょうがない、と思って無視無関心を貫いた。


 昇降口で外靴に履き替えた後、秋子と夏美と手を繋いで、校門を出ようとすると、


「雉ちゃん!」


 校門に背中を預けて佇んでいた、紫髪の美少女が、僕を見つけてパッと華やぐ。


 秋子にも夏美にも、負けず劣らずの美少女。


 錬金術でも「こうはいかない」という完成された美貌。


 量子だ。


 着ている……というより設定されている服装は、瀬野三のソレ。


「だろうとは思ったけどさ」


 苦笑してしまう。


「あ! なんで秋子ちゃんと夏美ちゃんと手を繋いでるのよ!」


「これからデートだから」


「私もデートする!」


 はいはい。


「ね? 二股デートじゃなかったでしょ?」


「三股という意味だったんですか……」


「モテる男は辛いね」


「あはははは~」


 無味無色の笑い声で、調子を合わせる夏美だった。


「どこ行くの?」


「祝夏季休暇ってことで、散財するために寿司屋へ」


「奢ってくれる?」


「無論」


 別に、誰彼に金銭を突っ込むわけではないけど、秋子と量子と夏美は例外だ。


 色々と、お世話になってるしね。


「雉ちゃん両手が塞がってる……」


 むぅと呻く量子。


 僕の両手は、秋子と夏美で占拠されている。


「代わりましょうか?」


「駄目」


 夏美の良心的な提案を、僕が却下する。


「なんでよぅ……」


「夏美と手を繋げる良い機会だから」


「雉ちゃん?」


「雉ちゃん?」


 瞳に影差す秋子と量子。


 そのクエスチョンマークが怖いんですけど……。

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