オーバードライブオンライン ―ネトゲを通じた恋愛の形―
揚羽常時
本編
第1話彼氏の事情1
僕は戦場を疾駆していた。
相対する手合いは二百人をくだらない。
こちらの戦力は僕一人。
つまり一対二百。
が、負ける気はさっぱりしなかった。
僕はシーフだ。
二百人に対して短刀一本で立ち向かうものの、その運動能力は敵の十倍近い。
膂力。
速力。
跳躍力。
それらの運動能力が認識の埒外なのである。
そして僕は短刀を構えたまま二百人の軍勢に突撃する。
「フォトンブレード!」
必殺技の名前を叫ぶ。
すると短刀の身から発光する刃が生まれ両手剣なみの長さまで伸びる。
つまり短刀のヒット判定を伸ばしたのである。
間合いは一瞬にして詰まる。
二百人の敵は一般的な人間の運動能力だ。
たいして僕はその約十倍。
仮にオリンピックに出れば後の百年は更新されないだろう大記録を打ち立てられるほどの運動能力である。
斬撃のスピードとタイミング。
敵情の把握と判断。
運動能力の相対差とそれによる戦術。
二百もの軍勢は僕の振るうフォトンブレードに斬り殺されて消えていく。
死体は残らない。
殺害ではあるが殺人ではないのだ。
その辺りをごっちゃにして問題を起こす人間もいるけど、僕はその範疇ではない。
脳。
首。
心臓。
手首。
合計四つのクリティカルポイントを正確無比に斬撃や刺突で攻撃し、クリティカルヒットを量産して駆逐していく。
瞬く間に二百の軍勢は決壊していった。
相対固有時間の差がそのまま戦力の差となっている。
相手がこちらを取り囲んではいるものの、状況把握を完璧にこなしてのけている僕にしてみれば十把一絡げに相違ない。
フォトンブレードは襲ってくる敵を次々に討ち滅ぼしていった。
敵軍が残り五十程度まで減ると、
「ようやっとお出ましか……」
敵軍の大将が現れた。
僕の視界で認識している敵大将の頭上に、
「呂布」
とネームウィンドウが出る。
呂布。
三国志における英雄の一人だ。
こと日本においては中々に神聖視されている武将の一人でもある。
このオドにおいてもそれは例外ではなく強力な敵大将と云える。
もっとも負ける気はしない。
呂布は僕より一倍半ほど背丈が大きく威圧感と云うかプレッシャーと云うか……そんなものをヒシヒシと感じる。
それに気負う僕でもなかったけど。
どちらにせよ殺さねばならない相手だ。
遠慮は無用だろう。
僕を環状に取り囲んでいる敵軍を僕は跳び越えた。
先述したが『今の僕』は一般人の約十倍の運動能力を持っている。
助走も道具もなしに高度十メートルまで身を移す。
有り得ないほどの跳躍力だけど、まぁ今更。
重力に捕まり落下。
その先には呂布が。
呂布は巨大な矛戟を振るって迎撃してくる。
僕はそれを短刀で弾いて懐に入る。
呂布の反応や運動の速度は十把一絡げの五倍程度。
が、僕はそれより疾い。
呂布の矛戟は懐に入ればヒット判定がつかない。
そして零距離では短刀の独壇場だ。
僕の握る短刀は特注品。
万物を切り裂くミラクルレアアイテム。
名をグラム。
オークションに出せばネットマネーで億はつく。
捌くつもりはないけど。
頼もしい僕の相棒だ。
そのグラムが呂布の首と心臓と手首を容赦なく切り裂く。
クリティカルポイントへの攻撃にラックの修正がかかって一息の内に呂布は倒れた。
ちなみにクエストのクリア条件は、
「呂布を倒すこと」
である。
シーフである僕は攻撃が同時にスティールスキルと直結していて、レアアイテムを呂布から盗んだ。
ラックを異常に上げているため呂布のドロップアイテムもスーパーレアだった。
得たアイテムは二つ。
呂布の矛戟。
呂布アバター。
それからゲームとしての特性上、経験値とお金も手に入れる。
「やれやれ」
やっと呂布セットが揃った。
呂布の矛戟と兜と鎧とアバター。
これを得るためにクエストを受けたも同然だ。
兜と鎧は持っていたから矛戟とアバターを揃えたかったところに此れだ。
運が良い。
というか繰り返しになるけど一般的なプレイヤーと違って僕は異常にラックにステータスポイントを割り振っている。
であるためレアアイテムのスティール率やドロップ率が有り得ないことになっている。
そしてそれこそが僕の生活の糧となるのだった。
ゲームクリアのロゴが視界に出て、僕は共有スペースに強制移動させられた。
「さて……」
と呟いて、
「メニュー」
と呟きメニュー欄を表示すると呂布セットを共有倉庫に移動させて、オドからログアウトした。
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