第181話この意なんの意4


 僕たちは、オドで無双していた。


 フォトンブレードで薙ぐ。


 魔術と銃撃が、フォローする。


 アリスはモンスターを操って、無双していた。


 シリョーはいない。


 仕事だ。


 僕についで強いのが、アリスとシリョーだったりするので、いまはミツナとコキアの経験値稼ぎに終始している。


 クエスト終了。


 それから非戦闘エリアで喫茶。


「ハイドは相変わらずだね」


「いやぁ」


「皮肉なんだけど」


 君が言うな。


 普通、皮肉は、もうちょっと年経て、獲得するモノだ。


 ネットの海に接続しているアリスは、耳年増だけども。


 精神年齢は加齢すべきだろう。


 それも無情だけども。


 世界は悲惨に満ちている。


 なんか、本気で同年齢と思えない、と言いますか。


「雉ちゃん。どうだった?」


「小慣れてはきたね」


「そう?」


「ああ」


「えへ」


 コキアが笑う。


 可愛い。


 ちなみにアバターでは、スットントン。


 現実でのバインバインは、コンプレックスらしい。


 同時に、武器としても、認識しているだろう。


 春雉攻略のための。


 そりゃ確かに、おっぱいは好きだけども。


「秋子は何で春雉を好きになったの?」


「それはアリスも聞きたい」


 一応、隔離処置をとった。


 ネットリテラシーの問題もあるしね。


 プログラムは一瞬だ。


「いつの間にか……だね」


「秋子の場合は自責観念だ」


 僕はデータのコーヒーを飲みながら、飛んでくる妖精を捕まえる。


 ファンタジ~。


「そんなことないよ?」


「じゃあなんで後悔してるんだよ」


「それは……」


「それは?」


「雉ちゃんの意地悪」


「何が起こったの?」


「アリスは、過去の僕の事件を、知らないはずはないよね?」


 ぶっちゃけ公爵に力添えしてもらったのだ。


 おかげで複雑な自意識を獲得するに至ったわけだけど。


 あっちの僕はこっちの僕を意識せず、いまも肉体を動かしている。


 そこら辺が二重統合人格の不思議な現象。


「火災。重度の火傷」


「そして意識不明」


 正解。


「で、僕と涼子が巻き込まれた火災の日、秋子は家族で出かけていた」


 おかげで紺青さん家は燃え滓となり、火災保険が下りたわけだけど。


「あう……」


 精神的な出血を呼ぶ。


 少なくとも秋子にとっては。


「何で?」


「私は、雉ちゃんを見捨てた……から……」


「家族旅行だったんでしょ?」


「それを差し引いてでも……雉ちゃんに寄り添うべきだった」


「…………」


 責任問題のレベルにさえ、達していない。


 背負う必要のない、罪悪感だ。


 重傷を負って、意識不明になった僕に、


「ごめんなさい」


 と千回以上繰り返した。


 千回の心配。


 千回の謝罪。


 千回の懺悔。


 全く必要のない物だ。


「一種の自己暗示だな」


 単純接触効果。


 繰り返すごとに重みを増す呪詛。


 ――もう視界から雉ちゃんを見放さない、と。


 ――次こそ救ってみせる、と


 秋子は心に誓った。


「次に同じ事が起きたら、絶対に対処して見せる」


「惨劇を繰り返さない」


 その自罰感情が、クルッと反転すると、想いになる。


 一緒に居なきゃ。


 一緒に生きなきゃ。


 一緒に連れられなきゃ。


 それを自分に課すことで、秋子は心の平穏を手に入れるのだ。


 本当に良い性格をしている。


「だって本当に辛かったんだもん」


 意識不明の僕を見て、泣いた秋子。


 その涙を、


「尊い」


 とは思えど、鎖にも似て。


 心を縛鎖する。


 乙女の国のお姫様。


 きっと、その「好き」は歪んでいる。


 けれどそれが秋子のパーソナリティで。


 だから自分にだけは通じる摂理。


 そうすることでしか、秋子は弱い自分を守れない。


 当然、僕の方は、一寸も付き合う気が無かった。


 憂いてくれるのは有り難いが、


「そのカロリーを他に回して」


 が本音だ。


 千回の心配と謝罪と懺悔は、言ってしまえば、


「乙女の呪い」


 でファイナルアンサーだった。

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