第30話超過疾走症候群3


「結論」


 ヴェネチアエリア。


 非戦闘区域。


 ゴンドラの上。


 手にはじゃがバター。


 波間に揺れて。


 バターの匂いを持つジャガイモを食べながら言う。


「決定的に向いてないよ君たち」


 それが結論だった。


「あぅ」


「うぅ」


 青い瞳と赤い瞳が残念そうにふせられる。


 あの後、何度かヴェネチアの戦闘区域でキングニクシーと戦ったけど、結果は苦心惨憺たるものだった。


 ニクシーについては問題ない。


 雑魚キャラは、超過疾走システムを使わないのがオドでの基本だ。


 例外はあるけど。


 で、ボスキャラは基本的に超過疾走システムを使ってくる。


 基本的に二倍から三倍。


 高レベルになると五倍近くまで加速することもある。


 ちなみにキングニクシーは二倍。


 一番基本的な速さと言える。


 で、


「その速度についていけないわけだ」


 僕がじゃがバターを食べながら言うと、


「申し訳ござらん……」


「ごめんなさい……」


 同じくじゃがバターを食べながらコキアとミツナ。


 もむもむ。


「別の方法のアプローチを試してみたら?」


「というと?」


「同じ部活に入るとか」


「墨洲くん部活に入ってないです」


「いっそ告白するとか」


「無理ですよ~」


 無理ですか。


 そうですか。


「オドで強くなって、墨洲くんを援護できるようになるのが、一番の近道なんです」


 さいですか。


 そうですか。


 いいんだけどさ。


 別に。


 問題はキングニクシーの攻略法だ。


 先述したけど超過疾走システムは魔術や銃弾の速度にまで影響する。


 である以上キングニクシーに魔術や銃弾を当てるには超絶技巧の技術を獲得するか、こちらも超過疾走に頼る他ない。


 実際キングニクシーは多少の攻撃は受けたものの、おおよそのコキアとミツナの攻撃を回避してのけた。


 そして繰り出される水鉄砲の速度は雑魚ニクシーの二倍。


 コキアとミツナに、


「避けろ」


 という方が無理な速度。


 それで殺られるから僕が倒すしかないんだけど。


 じゃがバターをもむもむ。


「人間、危機に陥ったら力を引き出す」


 とは云うけど、ゲーム世界で危機に陥ってもゲームオーバーになるだけだ。


 何と云うか……。


 本気でプレイしていないのが見て取れる。


 気持ちはわからんじゃないけどさ。


「さてさて」


 もむもむ。


「どうしたものかな?」


 もむもむ。


「ハイドは……」


 何よ?


「どうやって超過疾走システムに順応したんです?」


「才能」


 一言。


 いっそきっぱりと僕は言った。


「才能ですか……」


「才能です」


 僕のVRゲームへの順応感は半端ではない。


 ぶっちゃけた話、


「十倍の加速でも物足りない」


 のだ。


 僕はどこまでも速くなっていける。


 そんな確信が心の中央に根付いている。


 もっと早く。


 もっと速く。


 もっと疾く。


 もっと迅く。


 そう願わずにはいられない。


 だからこそオドのヘビープレイヤーになってるわけだけども。


「ハイドは凄いんですね」


 畏れいったか。


「ある意味で」


 ミツナはちょっと引き気味だった。


 気持ちはわかる。


「じゃ、セレクトボタンを押そっか」


 このままダラダラと続けるのも飽いてきたところだ。


 そもそも才能が無いので徒労には違いにゃーのだから。


「とりあえずログアウトしよ。今日はここまで」


「はーい」


「はいです」


「で、後でルーム作ってアドレス張るからそこに飛ぶこと」


「はーい」


「はいです」


 そして僕らはメニューウィンドウを呼び出してタクトを振る様に操作する。


 ログアウト。

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