第42話とある日3


 十二時。


 僕はモールに来ていた。


 秋子ともう一人との待ち合わせだ。


 春らしいシャツにジャケット。


 無難なジーパン。


 ネックレスは逆十字で腕時計装備。


 腕時計で時間を確認。


 十二時ジャスト。


 ちなみに視界に(というかクオリアに)時間表示のイメージウィンドウを開けば、時計なぞ必要ではないのだけど、様式美と云う奴だ。


 待ち合わせ場所には秋子が一人。


 薄紫のシャツに白いジャケット。


 地味な色のキュロット。


 それ故に秋子の脚線美を主張していた。


 長い黒髪は丁寧に梳かれていて、いつも以上に輝いて見える。


 手に持つはポーチ。


 前にブランドショップで目について僕が買い与えた物だ。


 こういう日に限って使ってくる。


 別に嫌な意味で言ってるわけじゃないんだけどさ。


「おまた」


 僕はひらひらとショッピングモール『百貨繚乱』の待ち合わせ場所にて居る秋子に声をかけた。


「雉ちゃん!」


 秋子は嬉しそうだ。


 何がそんなに有難い?


 怖いから聞けないけど。


 さてさて、


「じゃあ行こっか」


 あまりにワクワクと云った様子で僕に寄り添ってくる秋子に、


「しばし待って」


 と僕は制止する。


「何で?」


「もう一人が来ていない」


「は?」


 ポカンとする秋子。


 言いたいことはよくわかる。


「二人きりじゃないの?」


 ということだろう。


 事実秋子はそう言った。


「『二人』ではあるけど『きり』ではないね」


「悪い」


 とは思いながらも僕は皮肉る。


 さてさて、


「あの子は忙しいからねぇ」


 ぼやいてみせた。


 僕に関する限りにおいては例外ではあろうけど。


 それで多少待っていると、


「やっほ! 雉ちゃん! 秋子ちゃん!」


 そんな声が傍から聞こえた。


「…………」


 この沈黙は僕と秋子のモノ。


 ちなみに乗っている感情には差異がある。


 僕は呆れ。


 秋子は警戒。


 空間が歪んだ。


 光が投射され、何もない空間に立体映像が生まれる。


 現れたのは一人の人間(の立体映像)。


 が、その服装は常軌を逸していた。


 特攻服である。


 白いシャツ。


 黒いロングコート。


 コートの背なには旭日旗のプリントアウト。


 そのコートを全開で開いており、風も無いのに(立体映像であるから風が吹いても意味は無いのだけど)翻っている。


 パンツも黒。


 唯一紫色のセミロングストレートに麗しい美貌が服装の全てを裏切っていた。


 大日本量子の登場である。


「待った?」


 量子が尋ねる。


「僕は今来たところ。待たせたのは秋子だけ」


「そっか。ごめんね秋子ちゃん?」


「…………」


 秋子はジト目だった。


「なんで量子ちゃんがここにいるの?」


「機嫌取りに定期的に会っているのは秋子だって知ってるでしょ?」


「そうだけどぅ……」


「量子と二人でデートした方が良かった?」


 アレなら日にちずらすけど?


 そんな僕の提案に、


「それは駄目」


 と秋子。


 不条理だ。


 わかりきっている結論ではあるけれど。


「あはは。秋子ちゃんは本当に雉ちゃんが好きだねぇ」


「そういう量子ちゃんもね」


「うん。まぁ。その通りだ。好きだよ雉ちゃん?」


 ですか。


 ちなみに特攻服姿の量子は思いっきり浮いている。


 とりあえず、


「さすがに特攻服姿の女の子とデートなんて罰ゲームすぎる」


 ということで量子には無難な格好をしてもらうことになった。


 都合上髪の色はそのまま。


 ピンバッチ付きの白い帽子をかぶせて初夏らしい服装に変更。


 給料は出ないけど仕方なく僕が衣服のモデリングを即席で組んだ。


 一応量子が『大日本量子ちゃん』だとバレないように、だ。


 ちなみに二次ェクトとしての真似や模造は電子世界では当たり前だ。


 立体映像で大日本量子を再現することは造作もなく、アングラでは一種の市場を築いている。


 そんなわけで、


「量子は法人でアイドルだから量子の模倣は電子犯罪に相当する」


 という方程式が成り立つ。


 一応電子世界にも肖像権やら特許やらは存在するため(個人的にはどうでもいいんだけど)量子とは必然お忍びデートになる。


 で、適当にシャツとジャケットとミニスカートを量子に着せて、


「とりあえず昼食かぁ」


 と僕はぼやいた。


「むぅぅぅ」


 秋子はどこまでも不満そうだった。


 何もかも自分の望み通りにいくものではないのだから、


「勘弁してほしい」


 のだけど秋子の感情そのものに悪意が無いことだけは重々承知している。

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