第103話あなたは夕立の様で4


 で、


「到着」


 何処に?


 都会に。


 とりあえず、


「何処に行くか」


 となって、喫茶店に落ち着いた。


 四人(?)が、それぞれの席に着き、冷たい飲み物をいただく。


 僕のおごりだ。


 散財しないと、税金として持っていかれるだけだし。


 僕と量子が、アイスコーヒー。


 秋子と夏美が、アイスティー。


「とりあえず昼食はとるとして、その後どうする?」


「私は、ちょっと流行ってる手芸屋があるから、見てみたいな」


 却下。


「何でよぅ」


 特に意味は無い。


「量子さんと二人っきりラブラブデート!」


 却下。


「何でよぅ」


 そも、ここで「二人きり」とか言い出す神経が、理解できない。


「アミューズメントスペース……」


 妥当な落としどころだ。


「褒めてあげよう」


 夏美の赤い髪を、クシャクシャと撫ぜる。


「えへへ……」


 はにかむ夏美は、抜群に可愛かった。


 抱きしめてみたい。


 蝋人形化でも可。


 それはともあれ、


「何でわざわざ外に出たのにVRゲームをやらなくちゃいけないの?」


 皮肉ではない。


 心底不思議そうに、秋子が問うた。


 それを言っちゃ、お終いなんですが……。


 コーヒーを飲む。


「結局のところ、現実世界より電子世界ってことじゃないの?」


「電子世界なら、私も雉ちゃんといたすことが出来るしね」


「それは却下で」


「何でよぅ……」


 だからこっちのセリフ……っ。


 中略。


 アミューズメントスペースに、僕らは足を向けた。


 強硬に、唯物論を展開する秋子の気持ちも慮って、部屋取りは二時間ほど。


 そして部屋を施錠して、電子世界にダイブする僕ら。


 フィジカルの肉体?


 部屋の中で寝そべってますが。


「とりあえず何する?」


「二時間なら出来ることも限られてきますね」


「じゃあ単純なもので行こうか」


 とりあえずゴルフを選択。


 電子世界が限りなくフィジカルを再現できるにしたがって、大掛かりな設備を必要とする遊びは電子世界が筆頭となった。


 ゴルフやビリヤードやボーリングが良い例だろう。


 今時モノホンのソレを遊ぶ場は……無いとは言わないけど極端に少ない。


 当然、プロならば現実世界でプレイすることが必定だけど、僕らのように興じるだけなら、電子世界で事足りるというわけだ。


 もっともサッカーやバスケや野球は、いまだもって現実世界のソレが、隆盛冷めやらずという側面もあるため、全部が全部ってわけじゃないんだけどさ。


 そんなわけで、二時間程度を、電子世界でのゴルフに興じる僕ら。


 当然一位は量子。


 言わずもがなだ。


 電子世界のアイドルに、電子世界で勝とう、と、いうのが既にして間違っている。


 原因が誰にあろうとも。


 服飾屋巡りは、食傷気味だったので、断固として僕が反対したため、今度はカラオケに行くことになった。


 ここでも量子の独壇場。


 というか歌を上手く歌うように設定してるのが僕だし。


 僕は懐メロを。


 秋子はポップを。


 夏美はアニソンを。


 量子は持ちネタを。


 それぞれに唄うのだった。


 もちろん『シュレディンガーに例えるな』や『あなたはまるで』や『ラプラスの天使と悪魔』は最高得点を叩きだした。


「あなたはまるで夕立の様。恵みの雨と理解は出来るけどどうしても気落ちさせられる」


 悲恋の詩だ。


 悲恋の歌だ。


 悲恋の唄だ。


 悲恋の唱だ。


 ではその発信源は?


「…………」


 わからないわけじゃない。


「理解できているか?」


 と問われれば、首を傾げるけど。


 少しずつ、ピースは埋まっていく。


 それはきっと、悲恋の形。


「だから……きっと……あなたは……まるで……」


 情緒的に歌う量子の『あなたはまるで』がルームに響く。


 曲がフェードアウトして終い。


「ご清聴ありがとうございました」


 慇懃に、量子は一礼した。


 紫の髪が、キラリと揺れる。


「やっぱりアイドルは違いますね」


 拍手しながら夏美。


「まぁこの程度はやってのけるでしょう」


 至極当然と秋子。


 僕?


 秋子に一票。

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