第22話夏美のぼっち事情1
「ピピピ! ピピピ! ピピピ!」
クオリアに設定してあった目覚ましコールが鳴る。
「あう」
カルテジアン劇場のホムンクルスも辟易しているだろう。
「うるさい」
音声指示でアラームを止める。
今度は物理的な音声アラームが聞こえてきた。
「雉ちゃん! 起きる! もう朝だよ!」
ええ。
当然秋子です。
うちの鍵を渡してあるから僕にしてみればノーガード戦法である。
「むにゅう……今日はサボる……」
バナナ型の抱き枕を抱きしめながら微睡に身を任せる。
「じゃあ寝てる雉ちゃんを好きにしていいんだね?」
ちくしょう。
「起きればいいんでしょ起きれば」
「なんでよ~……」
秋子は不満らしかった。
さもありなん。
知ったことでもないんだけど。
「雉ちゃんのいけず」
「もっと相応しい相手を探してね」
「雉ちゃんが私の王子様!」
さいでっか。
「でもねぇ」
僕としては何と言うか……。
業が深いのか。
いっそ罪悪か。
最悪かもしれないし害悪かもしれない。
その辺をこんこんと語るほど馬鹿じゃないつもりだけど。
「昨日も夜更かし?」
「ん」
目をこすりながらコックリと頷く。
「今度は何してるの?」
「オーディンセットを集めてる」
「北欧神話エリアってレベル高くなかったっけ?」
「ファーストはせいぜい八十そこそこ」
欠伸を一つ。
「それなら雉ちゃんの敵じゃないね」
うんうんと秋子が納得。
「それより朝食は?」
「出来てるよ? その前にコーヒー飲むでしょ?」
「無敵だね君は」
「雉ちゃんに限り、ね」
ごもっとも。
うだうだとベッドから起き上がるとのそのそとダイニングに顔を出す。
いつも通りのテーブルの席に着き、
「…………」
ズズズとコーヒーをすする。
熱くなく。
温くもなく。
簡易に飲める温度でありながら、決して冷めた印象を与えないギリギリの温度加減。
これが秋子ニズムだ。
「じゃあ私は朝食を用意するね」
「ちなみにメニューは?」
「梅のおにぎりとわかめの味噌汁。それから浅漬け」
「ありがと」
「それが何より」
秋子は可愛らしくはにかんだ。
だろうね。
黒髪ロングに黒い瞳の大和撫子でありながら、鬼子とも錯覚できる美貌の持ち主だ。
僕じゃなければ参っていただろう。
喜色に大きな乳房がムニュンと揺れる。
オー、ジーザス。
理屈と理性は持ち合わせているけど、時折秋子の事情を忘れそうになる。
「…………」
コーヒーを飲む。
流されたところで秋子が幸せになるのは目に見えている。
そう云う意味では、
「何を躊躇することがある?」
って感じだけど六根清浄。
浮かび上がる百八の煩悩を切って捨て、リアリズムに回帰する。
とはいえ秋子に胃袋を支配されているのも事実で。
炊事に掃除に洗濯に物干しに……土井家の家事は紺青さん家の秋子ちゃんがやってくれているからサイクルが回っているのも事実で。
尽くしてくれている秋子に僕は何も還元してないのも事実で。
秋子は、
「愛に見返りは無いよ?」
とか言ってくれるけど何だかなぁ。
結局現時点を以ても秋子の用意したコーヒーを飲んで秋子の作った朝食を食べているのだから、
「どの口が言うんだ」
なんて話なんだよね。
僕は、
「いただきます」
と一拍。
もむもむと朝食をとる。
「美味しい?」
「美味しい」
阿吽の呼吸。
少なくとも世辞が入っていないことは長い付き合いだ……相互に理解できてるだろう。
「何点くらい?」
と幸せそうに秋子は問う。
何が嬉しいんだかな。
「八十九点」
わかっちゃいるけど理解不能でもある。
僕はと言えば味噌汁を飲みながらイメージウィンドウを呼び出して、今日の講義の予定を見ていた。
イメージによる認識でスクロールする。
「めんどくさ……」
うん。
寝よう。
秋子には悪いけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます