第133話ソレナンテエロゲ?4
「やってきました秋葉原」
「もしかして初めて?」
だね。
夏美の影響で、サブカルの知識は得たものの、
「聖地秋葉原」
には繋がらなかった。
「メイド喫茶とかあるんでしょ?」
「それは秋葉原だけじゃなく普通にあるんですけど……」
然り。
「なんなら寄りますか?」
「オタクショップを巡った後ね」
「とりあえずサークルさんの新刊が欲しいです」
「さあくるさんのしんかん?」
「ええと……」
夏美は、こめかみに、ピンと伸ばした人差し指を、水平に当てて、
「同人誌って知ってます?」
「オタク御用達のエロ本でしょ?」
「違います」
ムスッとした表情になる、夏美だった。
どうやら、逆鱗に触れたらしい。
「不理解でごめん。で、同人誌って何?」
「愛すべき作品をリスペクトした本のことです。出版物としての二次ェクトですね」
はあ。
「もちろんオリジナルの作品もあります。故に全てが全てというわけではありませんから注意は必要です」
はあ。
「そんなわけで自分の求める作品への愛を叫ぶ同人誌を見つけることは、時に当作品そのものに浸るより刺激的なこともあり得ます」
はあ。
「ガソダムの同人誌とかもありますよ?」
「怒られないの?」
「同人誌に関しては規制が緩いというか……企業側も諦めている側面があります。ですから量子ちゃんとしても、悪質な物を除けば干渉しないでしょう?」
「著作権のブラックホール……」
「言い得て妙ですね」
クスリと夏美は笑った。
「とりあえず獅子の穴に行きましょうか」
要するにオタクショップのことだ。
僕と秋子は、物珍し気に、店内を見渡す。
夏美は人込みに突貫して、同人誌を漁っていた。
「やんちゃなのは良い事だ」
「ここで表現できるのかな?」
それについては、僕も自信が無い。
「はう! ガンママ本が出てます! こっちはブレブレ本! わはぁ……! やっぱり全てはチェックできませんね! 来て良かったぁ」
「と夏美さんは仰られてますが?」
「まぁ誰にも執着するものはあるよ」
秋子も、夏美のテンションには、ついていけてないらしかった。
同じ境遇の僕が、言えた義理でもないんだけど。
そんなこんなで、ネットマネーでお買い物。
多数の同人誌を買うのだった。
「奢ろうか?」
と言ったら、
「駄目です」
と却下された。
どうやら一線引きたいらしい。
男に貢がせるというのも、夏美にしてみれば、格好がつかないのだろう。
僕としては、出費がそのまま税金対策になるから、別段不利になるってわけでもないんだけどなぁ……。
そう言うと、
「じゃあお茶を奢ってください」
と夏美。
「構やしませんがね」
僕は頷く。
「何処の喫茶店入る?」
秋子の疑問に、
「近くに本格的なメイド喫茶があるんです。そこにしましょう」
夏美は、朗々と答えた。
「メイド喫茶なのに本格的って矛盾してない?」
「ロンドンホームってお店なんです。店長がイギリスからの帰国子女で本場のメイドさんを見て育ったらしく、本格的なメイドの奉仕を楽しめるんですよ」
「…………」
この三点リーダは、僕の物。
海外に出て得た情報が、メイドさんってどうよ?
そうツッコみたかったけど、夏美のキラキラした瞳を見て、反論は諦めた。
そんなわけで、メイド喫茶ロンドンホームへと向かう僕たち。
と云っても、夏美が先述したように、近くにあったため、さほど歩きはしなかったけど。
「お帰りなさいませご主人様。お嬢様。お茶にしますか? お風呂にしますか? それともわ・た・し?」
「…………」
「…………」
「…………」
メイドの接待に、三人分の沈黙。
「じゃ、別の喫茶店に行こっか」
「なんでよぅ!」
量子が、メイド服姿のまま、抗議した。
紫色の、セミロングのアバター。
僕が素組みしたアバターだけど、最近、量子はこれを愛用している。
「とりあえず。何してんの量子?」
「仕事が終わったから、電子ストーキングして先回りしただけだよ」
さいでっか。
「どう? 私のメイド服。そそる?」
「可愛いよ」
「ふえやっ!?」
見事に狼狽える量子だった。
僕が、ツンデレするとでも思ったのだろう。
甘い甘い。
「とりあえず案内してくれない?」
「あ、はい」
量子は、僕らを歓迎した。
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