第40話とある日1
タタタタァン!
と連続して銃声が鳴る。
霧の都。
ロンドン。
そこに現れるシャドウマンというモンスターが、銃声が鳴る度に殺されていく。
影男の名の通り、全身が光を反射しない、のっぺりとした黒色の人型だ。
「黒いマネキン」
という表現がしっくりくる姿である。
濃霧に包まれているため視界は悪いけど、シャドウマンの数が百を下ることはないだろう。
多分。
だけどこの件に関する限り質は量に勝る。
なんのことかと言えばオドである。
正式名称はオーバードライブオンライン。
並み居る十把一絡げを倒しまくって無双するVRMMORPG。
そのクエストフィールド。
ロンドンエリア。
産業革命時代の時代考証だ。
タタタタァン!
タタタタァン!
「あはは!」
ミツナが笑う。
赤い長髪が翻り、赤い瞳の中で炎が翻り、トリガーハッピーのようにマスケット銃を連射する。
撃たれたシャドウマンはヒットポイントを零にして元の影へと還っていく。
ちなみにガンリアーの銃は、例えマスケット銃でもコスモガンであることを明記しておこう。
タン!
と軽やかな音を立ててミツナが跳躍。
空中に身を置いたけど容易に落ちてこない。
それもそのはず。
超過疾走システムと電子犯罪の恩恵によってオドにおけるミツナの反射速度、疾走速度、跳躍能力、発射される弾速、諸々が十倍速に相成っている。
「気持ちいいですね~」
空中で上下逆の体勢になりシャドウマンの群れを俯瞰。
そして雨の様に銃弾を天空から地上へ降らせる。
トリガーハッピーだ。
避けようにも、音速の三十倍の速度で発射される弾丸は、人間やモンスターのアルゴリズムの埒外である。
「あはは!」
タタタタァン!
タタタタァン!
「クイックドロウ」
なんて言葉も追いつかないほどの連射速度だ。
身体能力や銃弾能力が十倍に膨れ上がったとなれば、決して驚くべきことでもないのかもしれないけど。
ミツナの(僕を挟んで)反対側でも無双は行われていた。
コキアだ。
水流の様な青い長髪の美少女。
翻る青のカクテルドレス。
手に持つは魔法の杖。
ウィザードである。
その放つウィザード唯一の呪文詠唱のいらない基本攻撃……フィンの一撃はマジックパワーを消費せず遠距離攻撃が行なえる。
こちらもパパパパッと杖の先が明滅して、魔術の弾丸を連続して撃っている。
それにともないシャドウマンも影へと戻っていく。
魔法を弾丸に例えるなら、こちらもトリガーハッピーに相違ない。
ウィザードはステータスの一つであるスピードが足りないとよく言われるけど、ことコキアに限っては例外だ。
なにせこっちも一般的な身体能力の十倍で動いているのだから。
黙々と魔法の弾丸を撃ちながらシャドウマンの数を減らしていく。
速くなっているのは身体能力や反射速度だけではない。
ミツナの銃弾の様に、コキアの魔法もまた、発生速度や発射速度が十倍と相成っている。
襲いくる無数のシャドウマンに、一切の接近を許さず魔法で撃ち滅ぼしていく。
「あはは!」
タタタタァン!
「…………」
パパパパッ。
銃弾と魔法が敵を殲滅していく。
ロンドンエリアはさほどレベルを必要としていないため、超過疾走システムの恩恵を受けているコキアやミツナなら楽勝だろう。
僕?
僕はたまにコキアやミツナの撃ち漏らしを処理するに留める。
コキアはともあれ……なんにせよミツナには高レベルになってもらわなければならない。
それが契約だから。
あくまで友誼的な……ね?
というかこのレベルの雑魚を倒しても僕に入る経験値はしれたものだ。
で、ある以上やる気が出ないのも必然で。
「やれやれ」
こちらに襲い掛かってきたシャドウマンを斬り滅ぼす。
ミラクルレアのグラムに僕のシステムが乗れば、この程度は造作もない。
そしてフィールドは移り、ボスの出る区域へと進む。
出てくるボスを僕は知っていた。
ジャック・ザ・リッパー。
世界中に名を轟かせる連続殺人犯。
ロンドンエリアに相応しいボスと言えよう。
金髪の男が包丁とナイフの二刀流を以て襲い掛かってくる。
が、
「遅い」
それが僕の率直な感想だ。
それは僕だけではなくコキアやミツナの代弁でもあった。
超過疾走システムの恩恵は二倍。
つまり僕らの五分の一。
スピードのステータスにはそれなりに補正されているけど、僕たちの反射速度を超えるには至らない。
そして、
タタタタァン!
パパパパッ!
ミツナとコキアの攻撃がジャックを捉えた。
滅ぼすまでに大層な時間は必要なかった。
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