第39話大日本量子ちゃん6


 大日本量子ちゃんのライブは大成功に終わった。


 スタッフ一同の打ち上げの参加に誘われたけど用事があるので断る僕。


 そして僕は電子世界……セカンドアースの京都に来ていた。


 一人だ。


 秋子も承諾している。


 だいたい集合地点の集合時刻の十五分前に来て、十五分待ったら量子が現れた。


 量子は顔の造詣こそ美少女のソレで間違いないのだけど、紫色に染め上げたセミロングの髪はストレートにたらし、ピンバッチのついた白い帽子をかぶっていた。


 全部僕がプログラムしたとおりだ。


「待った?」


「そこまで」


「雉ちゃんらしいね」


 苦笑される。


 おかしなことを言ったつもりはないんだけど……。


「じゃ、いこ」


 量子は僕の手を取って京都の街を散策する。


 人力車に乗って京都観光。


 桂離宮を楽しみながらライブの感想などを言い合う。


「最後の新曲どうだった?」


「マニアックだと思いました」


「じゃあ『シュレディンガーに例えるな』は?」


「いつも通りだったよ」


「むぅ」


 何が不満か。


「最終調整したのが僕なんだからミスなんてありえないでしょ」


「そーだけどさー!」


「元々量子は声が綺麗だから電子世界で再現するのは骨だし」


「心臓だね」


 褒め言葉と受け取っておこう。


「最後の曲作ったのは?」


「コンセプトは私で、後はスタッフが組み上げたって感じかな?」


「さいですか」


「後後、歌詞の調整を私がしたの!」


「さいですか」


「雉ちゃんに向けて歌ったんだよ?」


「アイドルでしょ君は」


 ピコンと量子の鼻頭を指ではじく。


「うぁいた!」


 怯む量子だった。


 そして場所を移す。


 茶屋だ。


 白玉団子と抹茶を二人分頼んでテラス席でまったりする。


 話題も切り替わる。


「雉ちゃんは格好良くなったね」


「そりゃアバターくらい格好良くてもいいでしょ」


 先述したとおりの白い短髪に赤い瞳の美少年だ。


「現実の方」


「はぁ?」


 何を言ってるんだこやつは。


「現実の僕なんて冴えない日本男児だよ」


「格好いいよ? 自覚無い?」


「まったく」


「そもそうじゃないと秋子ちゃんが惚れるわけないでしょ?」


「あれは遺産だよ」


「それだけで恋心が持続するわけないでしょ」


「誤解だ」


「拗ねてる拗ねてる」


 うるさいなぁ。


「あんまり意地悪すると構ってもらえなくなるよ?」


「それは駄目!」


 慌てたように量子。


 苦笑する他ない。


「あくまでの話だよ」


「雉ちゃんは意地悪だよぅ」


「ま、色々と歪んだ勉強してきたもんで」


 そして白玉団子を食べて抹茶で流し込む。


「私だって雉ちゃんと現実世界でイチャイチャしたい!」


「データ上の人格が何言ってるのさ……」


 可能か不可能かなら可能ではある。


 人工知能の発達した現在においては人とロボットの境界線は限りなく希薄だ。


 ロボットと言っても人体を有する有機ロボットやクローン体もあるため今現在においては恋人を作るなぞ造作もない。


 無論有機ロボットに量子の人格をインストールして男女のお付き合いも出来ないではないのだ。


 僕が望んでないんだけど。


 別に畏れ多いわけじゃないけど、


「そんなこと」


 のために量子ちゃんを組み上げたわけじゃない。


 だから、


「たまにはこうして量子に付き合ってあげるからそれで勘弁して」


 抹茶を嚥下して僕は言うのだった。


「ふんだ。後から付き合ってとか言われたって遅いんだから」


 量子はそっぽを向いた。


 僕としてはそれでも構わない。


 口にしない程度の分別は持っているつもりなんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る