第143話きっと始まりが間違っていた2


 いったん、オドをログアウト。


 時間は、午後の三時を指していたけど、少し早めの夕食と、相成った。


 日が昇っているうちは、皆で、セカンドアースのパリ観光だけど、日が暮れれば夏美と二人きりの時間だ。


 パリでの食事……リストランテは三ツ星店の予約を、済ませている。


 とはいえ、セカンドアースは電子世界。


 いくら食べても、胃はふくれない。


 ので、事前に食事をとるのは、自然な流れだ。


「…………」


 アイスコーヒーを飲む。


 夏美と秋子が、夕食の準備をして、僕は量子と駄弁っていた。


「パリかぁ……」


「えへへ。楽しみだね雉ちゃん」


「君は幸せだね」


 少し、皮肉っぽくなってしまった。


「私だけじゃないよ。秋子ちゃんも夏美ちゃんも幸せ」


「ついでに僕もね」


「ハーレム創ろうよ。私と秋子ちゃんと夏美ちゃんを囲ってさ」


「君は事情知ってるでしょ」


「そ~だけど~……」


 なら言わないで。


 嘆息。


 基本的に、純粋に僕が好きになれる他人は、夏美だけだ。


 秋子と量子は……近すぎる。


 悪いというつもりは無い。


 秋子は秋子なりに。


 量子は量子なりに。


 それぞれ僕を想っての事なのだろうけど、好きになることと、甘やかすことは、違うと僕は思う。


 自分は、咎人だ。


 恥の多い人生を送ってきました。


 秋子の時も、涼子の時も、僕はその都度甘やかしてきた。


 その結果がこれだ。


 であるから、夏美の慕情は、貴重だ。


 皮肉にも、秋子と量子の想いが、ソレを浮き彫りにする。


 ままならないなぁ……。


「雉ちゃん?」


「何?」


「失礼なこと考えてたでしょ?」


「思想の自由は憲法で認められているはずだけど?」


「何考えてた?」


「ナツミン可愛いよナツミン……みたいな?」


「私の方が可愛いもん」


「顔だけならね」


 それはしょうがない。


 一度は惚れた相手だ。


 なお日本国民の、お茶の間に、浸透してしまったアイドルの頂点。


 そりゃ美少女でなければ嘘だ。


「私の方が大きいもん」


「おっぱいだけならね」


「お尻も」


「はいはい」


 データ上の存在に、スリーサイズ聞いても意味ないと思うんだけど、その辺どうだろう?


「本当に夜は夏美ちゃんと二人きりデートするの?」


「いけない?」


「嫉妬するよ」


「謝らないよ」


「別に求めてないけどね」


 でっか。


「量子は男子アイドルと付き合おうとか思わないわけ?」


 いわゆる男子アイドルも、電子アイドルには多数存在する。


 名を言うのは空恐ろしいから、口を噤むんだけど、男子アイドルプロダクションの最大手も、電子アイドルでユニット組ませて、歌わせたり躍らせたりさせているらしい。


 特に興味を引く話でもないので、噂程度の知識だけど。


 で、


「なんでゾンビと恋愛しなきゃいけないのよ」


 量子は、淡々と言ってのけた。


 ごもっとも。


 僕はアイスコーヒーを飲む。


「雉ちゃん。ご飯出来たよ?」


 キッチンから、秋子の声。


 ダイニングに、顔を出す。


 夕食(重ね重ね午後三時の早めのソレだ)は湯豆腐だった。


「時間的に考えて、あっさりしたものが良いかなって」


「良か事良か事」


「ちなみに出汁は夏美ちゃんがとったんだよ?」


「秋子ちゃんの監修が入っているから、ほとんど秋子ちゃんの功績ですけどね」


「いや。嬉しいよ」


 クシャッと夏美の赤い髪を撫ぜて、僕はダイニングの席に着く。


 そして早めの夕餉が始まった。


「どう……ですか……?」


「美味しいよ。本当に」


「わぁ……わぁ……」


 ポヤンと恥じらう、夏美だった。


「男の子に料理を褒められるとこんなにも嬉しいんですね……」


 可愛いな此奴。


「私が雉ちゃんに毎回食事の感想を聞く気分がわかった?」


「はい!」


 破顔して、同意する夏美だった。


 僕は、はふはふと、湯豆腐を食べる。


 話変わるけど、白菜は僕の大好物だ。


 冬の白菜が好きだけど、この際贅沢も言えないだろう。


 ちなみに、一部をよそって、データ化した湯豆腐を、量子も食べていた。


「よく出来てますねぇ」


 味覚再生エンジンは、正常に作動しているらしい。


 実際、美味しかったのだ。


「夏美は良いお嫁さんになれるね」


 ルン、と、僕は、声が弾んだ。


「ふぇあわわ!」


 真っ赤になる夏美は、ひどく趣があった。

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