第48話フラグ交差点3


「ガソダム見ました?」


 唐突な言葉。


 隣の席の夏美のモノだ。


「一通り」


 何のことかと言えばアニメの話である。


 夏美は赤い髪に赤い瞳を持つ。


 いわゆる一つのデザイナーチルドレン。


 主に、胎児の時点で遺伝子を操作して、内外問わず優秀にする施術をされた、業の深い子どもたちを指す。


 その恩恵を持って夏美は美少女と相成った。


 髪と瞳が赤いのもそのせい。


 が、これはこれで紅蓮の様な印象を組み込み、一部の隙もない感想を相手に与える。


 新入生の中でも抜きんでた美少女と云える。


 秋子と夏美。


 新入生可愛い女生徒の双璧を為す二人だ。


 そして二人そろってがっかりでもある。


 秋子については今更。


 そして夏美はいわゆるサブカルオタクなのだ。


 無論ネット社会が形成されたこの現代において、電子世界への傾倒は珍しくもないけど、アニメや漫画の話をする《今時の女子高生》は少ないわけで。


 その辺の意識は、過去の日本から推移していない。


 オシャレ。


 ブランド。


 香水。


 ドラマ。


 恋愛。


 カラオケ。


 今時の女子は、そんな話ばっかりをするため夏美は思いっきり浮いた。


 もうちょっと云うのなら、女子グループに入れてもらえなかった。


 が、元より夏美は、多数に迎合するような人間ではない。


 そういう意味では、やっぱりがっかりなのだ。


 閑話休題。


「アフロとツャアが、アラァを取り合って揉めてるのには首を傾げたけど、全体的には面白かったよ」


「どこが一番だった?」


「質量を持つ残像かな。まぁ主人公が一番真っ当だったってのもあるけど」


「でもキャラとしては弱いでしょ?」


 アクが強ければいいってものでもないけど……。


 それから僕と夏美はアニメについてアレコレ考察をした。


 全てを語り終えた後、


「ん。ちゃんと理解してるみたいね」


 満足そうに夏美は笑った。


「その笑顔を他の人間にも見せればいいのに」


 戯言だけど。


「だって墨洲くんにオタクだってばれたくないし……」


「それで切り捨てるならそれだけの存在ってことじゃない?」


「…………」


 ジト目になる夏美。


 赤い瞳が僕を穿つ。


「墨洲くんを悪く言うのは止めて」


 小さな声だった。


 まぁ大にして言うものでもないけど。


「はいはい」


 背伸びしながら僕は受け流す。


「しかして墨洲くんね……」


 チラとそっちに視線をやる。


 黒い髪の短髪は僕と一緒だけど、スポーツマン的な爽やかさがあった。


 たしか帰宅部と聞いたはずだけど。


 秋子と夏美を除くスクールカースト最高位と、


『今時』


 の話をして駄弁っている。


 リア充め。


 氏ねばいいのに。


 あえて言葉は選ぶんだけどさ。


 それでも爽やか少年墨洲くんは、落ちぶれ少年春雉くんにとって相容れない関係性と言える。


 さてさて。


「夏美」


 僕は夏美の名を呼ぶ。


「何?」


 答えられる。


「オシャレやファッションやドラマに開眼したら?」


 そうしたら墨洲くんの輪に入れるんじゃなかろうか?


 そんなことを言うと、


「だって興味ないんだもん……」


 ブスッとした表情の夏美。


「元々美少女に生まれたから、オシャレには頓着しないし、ドラマは見ても面白くないし」


 涙さえ誘う。


 蓼食う虫も好き好き。


 本人が承知してるなら、僕から言うことは何も無い。


「雉ちゃん? 何の話なんだよ?」


「今時の女子高生の感性について」


「うーん。雉ちゃんらしくないね」


「僕じゃなくて夏美に言ってください」


「夏美ちゃんは迎合しないの?」


「しません」


 いっそ清々しい。


「でもそれが墨洲くん攻略に、一番手っ取り早いと思うけどな」


 同意。


 もっとも秋子の言には、別の意味も込められているだろうけど。


 曰く、


「雉ちゃんに近づくな」


 である。


 僕?


 もちろん気づかないふり。

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