第123話乙女心は麦の様で6


「ぐえ」


 呻く僕。


「心の痛みだよ」


 量子は嬉しそうだ。


 さいでっか。


「量子ちゃん? 花火まで後どれくらいかな?」


「五分と云ったところかな」


 聞かんでもわかるだろうに。


 視界モニタがあるんだから。


「そだね」


 と腕の力を緩めて、僕の背中から離れる量子。


 それから、


「いい場所見つけてるの。行こ?」


 量子は、花火の観賞に最適なスポットを知っているらしく、先導する。


「うん」


 と夏美。


「あは」


 と秋子。


 そして、人気のない、開けた場所に出た。


 予定上の花火の打ち上げ地点から、俯瞰観測して、最適解と云える陣地取りだ。


 さすが大日本量子ちゃん。


「そろそろだね」


 量子がそう言うと、ヒュルルと打ち上げの音がして、夜空に大輪の花が咲いた。


 光が闇に侵食し、夜を舞台に、輝いては散っていく。


 赤色……黄色……青色……緑色……紫色……燈色……エトセトラエトセトラ。


 次々と、夜空に打たれ、散っていく。


 ぶっちゃけた話……花火とは炎色反応の成果の一つだ。


 ましてここはセカンドアース。


 プログラム次第で、どんな花火も自由自在。


 が、まぁ今くらいは、素直に感動しておこう。


「絶景絶景」


 咲いては散っていく花火は、春の桜と同じく、刹那の美を想起させる。


「値千両……いやいや値万両ですね」


 夏美が、苦笑した。


「散ればこそ、いとど花火は、めでたけれ、憂世になにか、久しかるべき……か」


「春雉は洒落てますね」


「雉ちゃんらしい」


 そうかな?


「ちょっと安易だと自分では思うんだけど」


「あはは」


 量子に笑われてしまった。


 ヒュルルと天に昇る。


 無音で開花を待つ。


 そして大輪の花を、夜空に咲かせる。


 一発一発が奇跡のように。


 一度一度が宝石のように。


 一回一回が功績のように。


 どれもが一瞬で散るけど、だからこそ目に焼き付いて離れない。


 ふと思った。


 山下清の『長岡の花火』を。


 刹那を永遠に変える。


 あの天才には、それが可能だった。


 これほど鮮烈な映像を、千切り紙細工に変換する。


 きっと永遠は、そこにこそある。


 だから、終わりは、終わりじゃない。


 たとえ貼絵の才能が無くとも。


 例え打ち終わってしまっても。


 今日の花火は、記憶と云う形で、人格のモザイクの一片に、彩られる。


 いまだ人類の技術は、不死に届いていない。


 この先、届くかどうかも分からない。


 だからきっと永遠は心の中。


 小宇宙にこそ存在する。


 そこにある大事な物こそ、輝くべき花火で、散っても残る宝物。


 僕は、いつのまにか離れてしまった、夏美の空いてる左手を、右手で握る。


「ふえ……」


 少しばかり驚かれる。


 どうも感傷的になってるね。


 悪い気はしないんだけども。


「夏美」


「何でしょう?」


「好きだよ」


「……あう……私も……」


 頬を染める夏美。


「私も!」


「私も私も!」


 秋子と量子が、割りこんできた。


 …………空気読め。


 言っても、しょうがないんだろうけど。


 乙女心は……はだしのアレに例えるのなら、


「冬の間、耐え忍んで、踏まれても踏まれても強くまっすぐにのびる麦」


 の様だ。


「まったく……」


 苦笑する以外に、何が出来よう。


「さて」


 話題を変える。


「花火も見終えたし……これからどうする? 解散?」


 そんな僕に、かしまし娘は、キョトンとした。


「え? 何その反応?」


 何かマズイこと言った?


「ええ」


「だって」


「ねえ」


 何でっしゃろ?


「「「オーバードライブオンラインで遊ぼうよ」」」


 あ~。


 ロマンチックに浸っていたから、そこまで気が回らなかった。


 たしかに……僕らを繋いだ、最初の絆だもんね。


「ログイン」








Fin

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