第147話きっと始まりが間違っていた6


 次の日。


「雉ちゃん! 起きる! 今日は布団干すよ!」


「君さぁ……」


 眠気眼で、秋子を見やりながら、僕は大層嘆息した。


 昨夜、あんなことがあったばかりで、良く割り切れるね?


 そうぼやくと、


「百回や千回断られたからって、雉ちゃんを諦めるなんて、私に限ってあるわけないじゃん」


 清々しく言い切られた。


 乙女心は……ままならない。


「春雉起きた」


「オー。マイラブリーフェアリーナツミン。この小姑になんか言ってやって」


「だれが小姑!?」


「自覚が無いなら考えものだね」


「朝食出来てるから。コーヒーも。今日は百貨繚乱でデート!」


「へぇへ」


 とりあえず、私室の布団の扱いは、秋子に任せて、僕は夏美と一緒にダイニングに向かった。


 秋子はキッチンに立って、朝食を用意すると、ダイニングテーブルに並べた。


 白米と浅漬けと納豆とワカメの味噌汁。


 健康的な食事だ。


「浅漬けは私が漬けました」


 誇らしげな夏美に、


「美味しいよ」


 と褒めてあげる。


「えへへぇ」


 と照れる夏美は、趣があったけど、それはともあれ。


「夏美は秋子の恋を応援してるの?」


「わりかし真剣に」


「昨夜のことは聞いた?」


「顛末だけなら」


 けんもほろろにした事だろう。


「秋子何か言ってた?」


「改めて春雉に惚れなおしたって」


 口が、への字に歪んだのも、しょうがなかったろう。


 乙女心は麦のようだ。


 無敵ともいう。


 恋する乙女に、理性が追従できないのは、何となくわかるけど、秋子のソレは、少々こじらせすぎている気もする。


 好きでいてもらえることは、素直に嬉しいんだけどね。


 それにしても、


「惚れなおしたって……」


「わかる気はしますけどね」


 夏美は、クスリと笑った。


 少々不愉快だ。


「何でさ?」


「春雉が誠実だからですよ」


「残酷なだけだよ」


「でも結局付き合ってますよね?」


「人の縁は容易に切れないからね」


 味噌汁をすする。


「優しいですね。春雉は」


 夏美はニコニコ。


「なんだかなぁ」


 浅漬けをコリコリ。


「きーじーちゃん!」


 大日本量子ちゃん登場。


「仕事は?」


「さっき終わったよ?」


「お疲れ」


「雉ちゃんもね」


「…………」


 沈思黙考。


「何かな?」


 量子もですか。


「だよだよ」


 くったくなく笑う量子。


「今日は百貨繚乱でデートだよね?」


「そうらしいね」


 欠席裁判だけど。


「秋子ちゃーん!」


 ドタドタと(比喩表現です。立体映像だから足音はしません。再現できないわけじゃないんだけど)秋子の元へと、走り去る量子だった。


「すっごくガーリーな服着よ! 雉ちゃんを悩殺できるような!」


 ミラクルハイテンションの声が、遠くに聞こえる。


 元気があるのは良い事だ。


 今回の件に、適応できるかは、別件ですけど。


「…………」


 黙して、味噌汁をすする。


「味噌汁は美味しいですか?」


「まぁね」


「秋子ちゃんのお手製ですよ?」


「なら美味いに決まってる」


「おや素直……」


「夏美は僕を何だと思ってるのさ?」


「ツンデレ?」


 いっそ秋子の事情を暴露しようか?


 ギリギリで思いとどまったけど、これじゃ何時まで経っても平行線だろう。


 胃に重い話だ。


「きーじちゃん」


 と秋子の声。


 秋子が、リビングに飛び出してきた。


 姿は、フリフリのサマードレス。


 きょぬ~の上半分が、零れ落ちそうなほど露出している。


 刺激的だ。


「本当にそれで人前に出るの?」


 冷静になるように諭す僕に、


「雉ちゃん以外の視線なんて気にならないから」


 そういうとこは可愛らしいんだけどねぇ。


 どうしたものか。

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