第162話零と一の間の初恋3
「え? じゃあウィータ恋したの?」
「うん」
秋子が、家事を終えて、帰った夜。
僕は、自宅で、アリス(立体映像)と話をしていた。
基本的に人見知りするため僕……つまりウィータと一対一の時しか現れない。
「恋愛かぁ。すごいね!」
「でしょ?」
僕も、ほくほくだ。
「ウィータのお眼鏡にかなった女の子っていたんだね!」
「可愛いんだよ」
それもすっごく。
ニコニコ顔の僕に、
「そんななんだ!」
「今まで秋子と一緒だったからあんまりその辺意識してなかったけど『恋はするものじゃ無い。落ちるものだ』ってのが腑に落ちて」
「うん。瞳が輝いてるもん!」
アリスは、苦笑した。
「ウィータが羨ましい……」
「なんなら恋人くらい作ろうか。三日あれば出来るけど?」
「ううん。いいや。好きな人がいるし!」
「そなんだ?」
「うん!」
「誰?」
「乙女の秘密だよ!」
華麗にウィンク。
「僕の恋は教えてあげたじゃん」
「自分から自白したようなものだよね!」
そなんだけど……。
「名前は?」
「志濃涼子」
「ふむ……」
と頷いて天井を見る。
人工知能が、こんなことをした場合、大抵ロクでもない。
「たしかに可愛いね!」
「平然とパーソナルデータを盗まないように」
「穏便に提供して貰っただけだよ?」
まぁ公爵の政治力なら、シャンシャンだろうけど。
「うん。まぁウィータが入れ込むのもわかるかな!」
「でがしょ?」
「ウィータ! ウィータ!」
「何でがしょ?」
「まだアタックするの?」
「うん。振り向いてくれるまで」
「あはは!」
朗らかに、アリスは笑った。
「ウィータは情熱!」
「好きな人に好きだって言うだけだよ」
苦笑。
他に適当な表情は無かったろう。
「純情だね!」
「恐悦至極」
鼻先を掻く。
「じゃあこっちも支援を惜しまないよ!」
「いいよ。別段、見返りを求めて、アリスを構築した訳じゃない」
「でもアリスもお爺様も、感謝してるよ?」
「その気持ちだけ」
「ウィ~タ~!」
そこで駄々をこねるんだ……。
「だって公爵の感謝は重すぎるんだもの……」
「どこが?」
「金地金だったり株だったりインサイダー情報だったり高級食材だったり……一応『迷惑だ』って牽制はしたけど不満そうだったなぁ」
「感謝の気持ちだよ!」
「だから気持ちだけで十分。もし足りないと思うのならアリスが僕の遊び相手になってよ」
「そんなことでいいの?」
「いいんです」
「ウィータなら婿養子に出来るよ? ハーレムも作れるよ?」
「まぁ男子中学生ですから憧れないと言えば嘘になるけど意味ないし」
それが僕の結論だった。
「ウィータ淡泊……」
「これでもVRに浸ってるんで」
人格が摩耗するのはしょうがない。
「じゃあお爺様に頼んで志濃涼子を追い詰めるとか」
「フォーマットするよ?」
「目が怖いよウィータ……」
さすがに怯えたらしい。
こういうところは年相応だ。
「じゃあどうすればいいのかな!」
「特に支援は期待してない」
これは僕の問題だ。
「じゃあ志濃涼子の喜びそうなプレゼントを見繕うとか?」
「それもこっちで何とかする」
「出来るの?」
「一応オドのネトオクで稼いでいますし」
肩をすくめる。
皮肉のつもりだ。
「そんな細々とした稼ぎなんて意味あるの?」
「まぁ小遣い稼ぎには好都合」
「資金の工面ならお爺様に頼んだ方が早くないかな!」
「借り作りたくないし」
心底からそう言う僕だった。
「うーん」
と唸った後、
「水月はストイック!」
「否定はしないよ」
どうしたものか、という感じだ。
「あんまり欲って奴が無くてねぇ」
これっぱかりは先天性だ。
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