第127話儚い夢の痕4


 そんなこんなで朝食開始。


 今日の朝食は、お茶漬けとキュウリの浅漬けと豆腐の味噌汁。


「いただきます」


 と僕と夏美と秋子。


 食事を開始すると、


「どうでしょう?」


 とおずおず夏美が問うてくる。


「美味しいよ」


 忌憚のない意見に、


「……っ」


 パァッとほころぶ、夏美の笑顔。


「光栄です!」


 可愛いにゃあ、この子。


 だから好きなんだけど。


 心の有り様が擦れてなくて、擦れすぎている僕には、眩しく映る。


 嬉しかったら笑う。


 悲しかったら泣く。


 僕には出来ないことだ。


 秋子と量子も泣いたり笑ったりは出来るけど、あくまで僕ありきだ。


 純情と言う意味では、ニアリーイコールだけど、やっぱり夏美には敵わない。


「きーじーちゃーんっ!」


 相変わらず、思念言語が鬱陶しい。


 しょうがないから、我が家の機能、回復。


 投影機から、量子が姿を現した。


「わ」


 と驚く夏美。


「…………」


 淡々とお茶漬けをすする秋子。


「はぁ」


 疲労の溜め息をつく僕。


「だから好きよ?」


 猫なで声の量子。


 結局のところ幼、馴染の我が儘を、一定まで許容してしまうのは、僕のカルマだ。


 秋子に対する後ろめたさと、突き放さない態度も、これに起因する。


「私の朝食は?」


 さも当然、とでも言わんばかりだ。


「自分で準備なさい」


 秋子が、つっけんどんに言った。


 まぁ手作りしてデータに変更すれば、振る舞えはするけど、ぶっちゃけ一食分損するのみだ。


 だいたいデータ上の量子には、新陳代謝が無いから、アイドルとしては完璧だけど、人間としては不完全だ。


 それでも、ご飯を強請るのは、過去の残滓。


 そして僕の業。


 これ以上は語っても辛いだけなので、中略。


「今日は何処でデートするの?」


「オド」


 オーバードライブオンラインの略称だ。


「私もオドです」


「私もね」


「じゃあ皆オドかぁ……」


 苦悩する量子に、


「墨洲総一郎もね」


 空気をあえて読まない僕。


 というかここで立場を決していないと、余計面倒くさくなるだけだからなんだけど。


「イレイザーズねぇ……。解散しない?」


「ギルドは五人からだよ?」


 僕、夏美、秋子、量子、総一郎で五人だ。


「じゃあ私の友達を見繕うから」


 平然と量子。


「量子ちゃんの友達となると……」


 正解です夏美。


「例えば凛ちゃんとか?」


 凛ちゃん。


 テキストワークシステム株式会社が、電子世界に送り出した、電子アイドルだ。


 量子ほどではないけど、そこそこ有名で人気もある。


「スケジュールどうするの?」


「登校や出勤が無いだけ一般人より暇だけど」


 そ~だけどさ~。


「めんどいからパス」


「むぅ」


「他に友達を知ってる人は?」


「私は雉ちゃんしか知らない」


「私も春雉と秋子ちゃんと量子ちゃんだけ……」


「言われても見ると僕もそうか」


 なんて狭い人間関係だ。


 お茶漬けをすする。


 アリスは人見知りするため、呼ぶに呼べないし……。


 ダイニングテーブルを囲む人数で、友達の輪が閉じているというのは、どういう事態なのだろう?


 元より、僕と秋子は他を寄せ付けていなかったし、夏美は深刻なサブカルオープンオタクだったからぼっちだったのだ。


 目から汗が止まりません。


 と、まぁ事情の深刻さゆえに、思考を切り替える。


「とりあえずイレイザーズは続行と言うことで」


「…………」


 ジト目の秋子。


「言葉で主張しないと伝わらないよ」


「私、あの人嫌いです」


 きっぱり、ぱりぱり。


「実は僕もそこまで好意的じゃない」


 僕もぶっちゃけた。


「私は……」


 言葉に詰まる夏美。


「私はまぁどうでもいいかなぁ」


 量子は、ぼんやりと仮想体験の茶を飲みながら。


 イレイザーズで、


「シリョーが大日本量子だ」


 と知らないのは総一郎だけだ。


 面倒だから、今後も話す予定もないのだけど。


「あのいやらしい視線が何とも……」


「それについては自業自得でしょ」


「まったくだ」


 量子と僕の皮肉に、


「だってさぁ……」


 途方に暮れる秋子。


 わはは。


 残念だったね。


 夏美は、自身の平たい胸を、ふにふにと揉む。


「私……豊胸手術をした方が良いでしょうか?」


「それはやめて」

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