第37話大日本量子ちゃん4


 ダイレクトダイブ。


 任意領域にアクセススタート。


 リンク完了。


「やれやれ」


 僕は電子世界に来ていた。


 その隔離スペースのアドレス。


 扉には施錠が為されており、関係者以外立ち入り禁止。


 で、僕は関係者。


 別にクラッキングでドアを開けることもできるけど、元より空いている鍵にピッキングする理由も無い。


 アバターはジキルおよびハイドのもの。


 即ち白い短髪に赤い瞳の美少年。


 ただしオーバードライブオンラインの装備とは違い、一般的な服装だ。


 黒いジャケットを袖だけ通し、ノースリーブにジーパンと云う服装。


 後は首にネックレス。


 首に巻くのにネックレス(首無し)とはこれ如何に。


 永遠の謎である。


 とまれ、扉を開けて、


「よろしくお願いします」


 と挨拶。


 そして入室。


「雉ちゃーん!」


 セミロングの黒髪ツインテールに、鼻筋の通った、絶世にして不世出にして、クレオパトラもエリザベスも叶わない……そんな超美少女が僕に抱き付いてきた。


 あくまでもアバターでのことです。


 電子世界でのことです。


 データ上でのことです。


 もっとも量コンによるモノだから、現実世界との齟齬は指摘が難しいんだけど。


 そして僕は、


「却下」


 と量子との接触を拒絶した。


「あうん」


 と呻いて弾かれる量子。


「何するの雉ちゃん」


「何って……セクハラ防止コードを規則に則って、行使しただけなんだけどな」


「抱き付かせてよ!」


「アイドルの発言じゃないなぁ……」


 はい。


 わかってます。


 紹介します。


 こちらにおわすブラックセミロングツインテールの美少女が、今ホットな電子アイドルたる……、


「大日本量子ちゃん」


 に相違ありません。


 胸はだいたい秋子より一回り小さいくらい。


 というか秋子のが大きすぎるだけで、僕としては控えめな量子の方が好ましくはあるんだけど……。


 美乳と云うんだっけ?


 まぁそこらへんの定義はこの際無視して、


「じゃあ調整始めるよ」


 僕は赤い瞳に意思を宿して、イメージパネルを呼び出す。


「はいリンク」


 量子を催促する。


「ふんだ」


 量子は可愛らしく、そっぽを向いた。


 不機嫌らしい。


 あのさぁ。


「そっぽ向くのは良いけど、そのままステージに出るつもり?」


「うぅ……」


 どちらにせよ僕に優位性があるのは、大宇宙の真理だ。


「土井くん。最終調整をよろしく頼む」


 僕より年上のアバター(実年齢はともあれ)が、僕にさっきまでのデータ調整の事を示してきた。


「後は君の方でお願いする」


「ま、VIP席のチケット代くらいは働きますよ」


 そう言ってイメージキーボードを叩く。


 まるで鍵盤を叩くプロピアニストの様に鮮やかに。


 出てきたデータはクオリア情報。


 そこから更に細分化した脳機能の全て。


 バグを発見しては修正していく。


 お役所仕事だと手際が雑になるのはわかるけど……、


「なんだかなぁ」


 というのが僕のいつもの感想。


 カタカタとキーボードを打つ手は止めない。


 この感覚は実に僕に馴染んでいる。


 人一人の脳プログラムを完全に網羅構築する術を、僕はだいぶ前に獲得した。


 そしてそれ故に大日本量子がおり……僕に大日本量子ちゃんの最終調整が回ってくるくらいなのだ。


「そうだ! サインいる?」


 量子は僕の仕事の邪魔をしてくる。


「ネトオクで売ってもいいなら受け付けるけど?」


「つまんないつまんないつまんないの~」


「ライブは楽しみにしてるから」


「えへへぇ」


 ……単純な奴。


 僕のご機嫌取りが、量子の一番の特効薬だ。


 それから一時間。


 僕はひたすらキーボードを打って、機械言語で量子ちゃんを調整していく。


 タン。


 最後にエンターキーを押して、


「終了です」


 そう宣言した。


 今この電子楽屋スペースにいるスタッフたちが、謝辞を述べてきた。


 まぁこっちとしてはビジネスだから、お礼をいわれる筋合いでもないんだけど。


「ライブ、盛り上げてみせるよ! 見ててね雉ちゃん!」


「うん。一番良い所で見ててあげる」


「雉ちゃんの声援が何よりの勇気になるんだから!」


 でっか。

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