第22話

 小屋を出て暴風雨の中を遭遇するSSクラスの魔獣を倒しながら3時間程ジャングル進んだ彼らはジャングルを抜けた。抜けるとその先に大きな池と滝が現れた。


 全員が目を凝らして滝を見ると滝の前にある池には小島があり、その小島から滝裏に続く細い道が伸びている。池の周囲、突き当りは崖になっておりそこからは滝の裏には行けそうにない。滝の裏が奥に進むルートだろうが、そこに行くには小島に渡る必要がありそうだ。そしてその池の中にある小島にも魔獣が4体徘徊しているのが見えていた。こちら側から池の小島までは20メートルはあるだろう。


「おい、小船があるぞ!」


 ランディの声で全員がそちらを見た。4人から見て前方右側、大きな池のこちら側の岸に木製の小船が置かれていた。


 ランディの声で4人は魔獣を倒しながら小船に近づいていった。相変わらずの暴風雨だが船に水は溜まっていない。ただせいぜい2人が乗れるほどの本当の小船だった。小舟は船首側も船尾側も細くなっていてどちらが船首か船尾だかがわからない。船を漕ぐためのオールが1本だけ船の中にある。


「向こうにも敵がいる、船は小さい。こりゃきついな」


「小島にいる魔獣はリンクするだろう」


「ああ、間違いないな、と言うことで、ローリー、よろしく」


 ランディ、ハンク、そしてマーカスはそう言うと島に背を向けた。

 3人が船の周囲を警戒し、ジャングルの中からこちらに向かってくる魔獣を倒している間、ローリーは船と小島、池の様子をチェックする。小島から滝の裏に伸びている道についてもじっくりと観察した。


 一度に乗れるのは2人。普通に考えれば2人が船に乗って小島で1人下ろして1人が船を漕いで戻ってくる。そうやってここと島との間を4往復すればメンバー5人を島に送り込める。今のパーティは4人だから3往復だ。


 1人ずつ小島に渡ることは可能だろうが最初に渡ったメンバーは小島にいるSSクラスの魔獣を1人で相手にすることになる。どう考えても奴らはリンクするだろう。SSクラスを1人で4体となるとまず無理だ。装備の良いランディでも簡単な事じゃない。



 どうする?


 

 背後では3人が近づいてきた魔獣と戦闘状態にある音が聞こえてくる。

 時間にして数分の事だったがローリーは自分なりの作戦を立てた。


 振り返ると丁度3人がSSクラスの魔獣を倒したところだった。

 魔獣を倒して背後を振り返った3人を見てローリーが言った。 


「一旦小屋まで引き返したい。準備が必要なんだ」


「分かった」


「いいぞ」


「戻るか」


 朝から雨の中3時間歩いてたどり着いたこの場所からまた小屋に戻ると言ったローリーだが3人は誰も反対しなかった。ローリーが準備が必要だと言えばそれはこの場所では出来ない準備だ。そしてその準備をすることで攻略できるのであれば来た道を引き返すことは問題ない。


 来た時と同じ様に3時間程かけて4人は野営をした小屋に戻ってきた。

 小屋に入ると3人がローリーを見る。


「まずは防具を乾かして食事にしよう。いずれにしても往復で6時間程歩いている、戦闘もしている。休憩が必要だよ」


 男4人が上半身裸のパンツ一丁の姿で床に座り込んで食事をしている。小屋の中は寒くもなく暑くもない。

 

 ある程度各自の食事が減ったところでローリーが口を開いた。3人が食事の手を止めてローリーを見る。


「まずルートの確認だけど、皆が見た滝の裏がフロアを攻略するルートで、そこに行くためにはあの小島に渡る必要がある。ここまではいいかな?」


 頷く3人。


「それでだ。あの小島に渡る為に使用できるだろう2人乗りのボートが1隻置かれていた。普通に考えると2人乗って1人を島で下ろして戻ってきてまた1人乗せて…を3回繰り返して4人が小島に渡る事を考えると思うけど、そうなると最初に島に渡った1人は次の1人が来るまでの間、1人でSSクラス4体の相手をしなければならない。ランディでも厳しいだろう」


「確かにな。3体なら短時間ならいけるかもだが4体なら任せておけ、と言い切る自信がない」


 ここにいる4人は自分の力量をきちんと把握している。この場で精神論を振りかざして任せろ。気合で守ってやるよ、などと言う者はいない。


「じゃあ2人ならどうだ?ランディと俺だ」


「ローリーと2人で最初に渡るということだな。それならいける」


「俺もそう思う。ローリーと俺ならローリーが踏ん張ってる間に魔法で1体はすぐに倒せる。残り3体になるとグッと楽になる」


「つまり先に2人で小島の4体を掃除してから俺とマーカスを運ぶという作戦かい?」


 ハンクが言うと違うと首を振るローリー。


「それも考えたんだよ。ただ島いる4体を倒したとしても又すぐにリポップするかもしれない。そしてハンクとマーカスのいるこちら側でもいつリンクするか分からない。そう考えるとそのアイデアは使えない」


「つまりもっと良いアイデアがあるってことだな」


 そう言ったランディにその通りだと答えるローリー。


「皆、流砂のダンジョン攻略の時に持っていたロープはまだあるかい?」


 あるぞ。とランディはアイテムボックスから、ハンクとマーカスは魔法袋から、そしてローリーは収納から取り出した。

 

 床に置かれた4本のロープ。長さは5メートル。4本つなげば20メートルとなりギリギリ対岸から島までは届く。


 3人がそう思っているとローリーが収納から1本の短い杖、ワンドを取り出した。トゥーリアのダンジョンの宝箱からでて一時使っていたが今になってはもう使う事のない古いワンドだ。ロープの片側とワンドとをしっかりと結んだ。


「杖を結んでいない方のロープは小船の船尾に括りつける。最初に俺とランディが小島に行くので降りたらそのロープを全力で引っ張って自分達の方に戻してから乗って来てほしい。ロープを引っ張って船が戻ってきたらハンクとマーカスが船に乗ってワンドを島に投げてくれれば俺が受け取って縄を引っ張る。もちろん漕いでくれてもいい。これが一番4人がバラバラに分かれている時間が少なくなると思うんだ。2度で済む」


「あの船、船首も船尾もどちらも先が細くなっていたよな」


「推測だがダンジョンの意思としては前後が決まっていない船、方向転換の必要が無い船だから急げば数度往復して池を渡れるぞという冒険者に対する挑戦だと思う。しかしだ、逆に言えばあそこで時間を掛けるとこちら側から小島かのどちらか、下手すりゃ両方でリンクするぞと言っている様なものだよ」


 ローリーの言葉になるほどと納得する3人。


「だから移送の時間を最も短縮できる方法はないかと考えたんだよ。小島の周囲に生えているジャングルの木を切るのは時間がかかりすぎる。その間に何体リンクするか読めない。であればあの船の最も有効的な使い方を考えた」


 片側の先を杖に巻き付けているのは投げやすい、受け取りやすいからだというローリー。ロープだけだったら狙った場所に投げられずに池に落ちてでもしたら時間をロスする。ワンドならある程度の重さがありあの距離なら20メートルの距離なら問題ないだろう。


 どうかな?というローリーに対して3人がそれで行こうと賛成する。これなら2度の渡河で済むし2度目が自分達で漕いで移動するのであればローリーとランディで4体をキープ、或いは1体位は倒せるだろう。



 大休憩してから行こうというランディの声で全員が床に腰を落とした。


「ここに来て明確なダンジョンの意思ってのが現れたか」


「そうだな。あの船の形を見て確信したよ」


 ランディの言葉に答えるローリー。


「それにしても先を読む男だな」


「俺は地獄のダンジョンはダンジョンとローリーとの知恵比べだと思ってる」


 ランディが言うとハンクとマーカスの2人が全くだと頷く。


「そんな事はないだろう」


「いや。そうなんだよ。普通のダンジョンなら腕がありゃ下に降りていける。そりゃNM戦なんかでは作戦はあるさ。ただそれはあくまで対魔獣の話だ。地獄のダンジョンは違う。体力、技量があるだけじゃあ攻略に限界が来て途中から前に進めなくなる。そこから先は知力だよ。知恵比べだ」


 ランディの力説を聞いている3人だった。


「滝裏に言ったらボス層へ降りる階段があるとかかな」


「そうかも知れないな」


 今までのダンジョンの広さから見るとハンクが言う通りそろそろこのフロアも終わりだろう。ただ最後のあの小島への移動は簡単じゃない。ローリーは答えながらも気を引き締めていた。


 大休憩と言っても野営ではないので防具はあまり乾いていなかったが文句は言えない。全員が防具を着て装備を身に付けると再び小屋から外に出てジャングルの中を敵を倒しながら前に進んで行った。


 ジャングルの先の風景はさっきと同じだった。4人は陸に上がっているボートに近づくと船尾側にロープをしっかりと巻き付ける。すぐにランディとローリーが船を池に浮かべるとそのまま乗ってローリーがオールを漕いで船を進ませ始めた。ランディは船主側でいつでも飛び降りる準備をしている。


「ランディの予想通りだ」


 船が小島に近づくとそこにいた4体の魔獣が集まってきた。最後の1メートルをジャンプして小島に渡ったランディが直ぐに挑発スキルを発動して4体を引き受ける。ローリーも船からジャンプすると1体に遠慮のない精霊魔法を撃ちこんだ。敵対心マイナス装備で

ガチガチに固めているローリーはそれだけを信じて魔法を撃つ。


 ローリらが船に乗ってすぐにジャングルから2体のSSクラスが出てきた。


「船が出るのがトリガーか?」


 そう言ってハンクが2体のタゲと取ると素早く動いて魔獣の攻撃をかわしながら傷をつける。


「2人が上陸したぞ」


 マーカスは大声を出してこちら側にあるワンドを持ち上げると全力でロープを引いた。小船があっという間に戻ってくる。人が漕いでいたらこうは早く戻れなかっただろう。


「船が来たぞ、乗り込め」


 そう言って先に船に乗ったマーカス。すぐに片手剣を振り回していたハンクが飛び乗ってきた。マーカスがオールを漕いで船が離岸すると魔獣は諦めたのかジャングルに戻っていった。


「このまま漕ぐぞ」


「マーカス、変わろう。矢を射ってくれ!」


 オールをハンクに渡すとすぐに精霊の弓でランディが対峙している魔獣に矢を撃つ。もうほとんど死んでいたのだろう。マーカスの1矢で魔獣が倒れてあと3体になった。そのタイミングでハンクとマーカスが小島に渡り終えると4人で残り3体と対峙するがこうなるとこちらの方が強く、危なげなく残りの3体を倒しきった。


 いつリポップするか分からないので4人が揃うとすぐに島から滝の方に伸びている道を歩いて滝の裏側に回り込むとその裏には10メートル程奥に入る洞窟があり、その一番奥には下に降りていく階段が有った。

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