第28話

 三叉路に立っていたSSランクの魔獣を倒すとランディ、ハンク、マーカス、ローリーの順で左に伸びている細い道を登る。この細い道のルートは強風と大雪をまともに正面から受ける事となり全員がやや前傾姿勢になり周囲と足元を警戒しながら進んでいった。ローリーがチラッと背後を振り返ると深い霧に隠れて三叉路はもう見えなくなっていた。顔を前方に戻すと山の斜面に大きな岩がありそれを迂回する様に細いスロープが続いている。


 そしてその大きな岩を周った先に小屋があった。細いスロープが小屋の玄関に続いていた。


「1体いるぞ」


 小屋を見た時にサーチをしたマーカスが声を出した。

 4人はゆっくりと小屋に近づいて全員が戦闘準備を完了するとハンクが扉を外に向かって一気に開いた。中からSSクラスの魔獣が飛び出してきたがすぐにランディが挑発スキルを発動して魔獣のタゲを取る。あとはタコ殴りでSSクラスを倒してからランディが小屋の中を一瞥する。


「大丈夫だ」


 その声で全員が小屋に入る。40層の砂漠にあった小屋と同じく中はだだっ広い間仕切りが無い小屋だった。木でできている小屋だが密封性はよく隙間風が全く入ってこない。窓も木枠だがガラスがしっかりとはめ込まれている。玄関から見て正面にある壁にはめ込まれている窓の外には強風と雪が絶え間なく叩きつけている。


「中は大丈夫っぽいが?」


 部屋の中をぐるっと見回して問題がないと部屋の中央に戻ってきたハンクが言った。


「一応REPOPが無いのを確認しよう。しかし風と雪を凌げるというだけで全然違うな」


「全くだ。この細い道を進んでいるときはもろに正面から風と雪を受けていたからな。この中は天国だよ」


 ランディの言葉に続けて言うマーカス。その間ローリーは部屋の壁沿いに違和感を探しながらぐるっと一回りしていた。実際小屋の中は外とは別世界だ。気密性の良い小屋の中は外よりも温度が高くそして静かでまるで別世界の様だ。


「大丈夫そうだな。魔獣が湧く気配も感じない。つまりここは安全地帯だ」


 その言葉で全員が木の床の上に腰を下ろして大きな息を吐いた。強風と横殴りの雪の中を5時間ちょっと登って来ておりその疲労度は普通の山登りとは全然違う。流石に4人全員がぐったりとする。


 ローリーは収納の中からコート2枚を出すとハンクとマーカスに渡し、食料と飲料を床の上に広げた。この小屋の中で焚火をする訳にはいかないが小屋の中は暖房が入らないほど暖かかった。これもダンジョンの不思議の1つなのか。


 彼らは床に置かれた食料や飲料を各自が思い思いに手に取って口に運ぶ。全員が生き返ったと表情を緩めた。


「山を登り始めてから休んだ洞穴、あそこが3合目か4合目としたらここは6合目か7合目辺りだろう」


 床に座っているメンバーが食事を始めたタイミングでローリーが口を開いた。他の3人は食事の手を止めて彼を見る。


「ゴールがどこかは分からない。頂上なのかそれともその手前にあるのか。いずれにしてもこの小屋を出ると次はゴールを見つけるまでは休める場所がないと考えた方が良いだろう。そして小屋と小屋との時間から推測すると最も上手く進んだとしてここから5時間、ひょっとしたら6時間程休憩できないと思った方が良いだろう。ここで野営をしてしっかりと休もう」


 そう言って窓の外に顔を向ける。強風と雪が窓ガラスに当たっているの見ると小屋の中に顔を戻して言った。


「外はあんな調子だ。これより酷くなることは有ってもマシになる事はないだろうからな」


 ローリーの意見が採用される。他の3人もこの次がゴールだろうと認識しておりであるならばここでしっかりと休むことが重要だと言う。


「さっきの三叉路を右に進んでいたら休む事も出来なかっただろうな」


「恐らくそうだろう。雪と風を正面から受けるのが嫌だからとか一気にゴールを目指そうとか思ってあそこで右に行ってたら地獄だっただろう。防寒装備をしている俺達だってかなり寒かった。装備が不十分の奴らだとしたら間違いなく寒さで死んでいる」


 マーカスとランディのやり取りを聞きながら食事を口に運んでいるローリー。全くその通りだと思っていた。この46層はルートと敵の討伐は問題ないがこの天候で挑戦者の気持ちを折ろうとしてくる。いや殺しに来ている。これはこれで嫌らしいフロアだと感じていた。恐らくここでしっかりと休んだあとはゴールの階段まで問題なく進めるだろう。46層のクリアが見えてきた。ただクリアしたとしてもまだ3層残っておりそれをクリアしてやっとボス戦だ。最後まで気を緩めずにやろうと気合を入れ直す。



 雪山登山は当人達が思っていた以上にメンバーの肉体にダメージを与えていた。結局交代で睡眠をとって丸1日近くを山小屋で過ごした4人。ローリーも自分がここまで疲労していたのかと思う程たっぷりと睡眠を取った。おかげで4人ともすこぶる元気になっている。


「さてと、ゴール目指して行くか」


 ランディの声で暖かくて静かだった部屋ともお別れして小屋の扉を開けると一気に気温が下がり風と雪が彼らに吹きつけてきた。


 歩いてきた小道を逆に進んでいくと見おぼえがある三叉路が見えてくる。それを左に進みだした4人。今は強風と雪は背後、背中側から吹き付けてくるので風に押される様にして進んでいく。広いスロープを歩き始めるとスロープにいる魔獣の姿が目に入ってきた。ランクはSSクラスとこれまでとは変わらない。


 魔獣を倒しつつスロープを上に向かって登っていく4人。

 ローリーの予想通り小屋を出てから6時間後、スロープの先に小さな扉のない小屋が見え、その中にある下に降りていく階段が見えていた。


 最後は全員がダッシュをしてその小屋に飛び込んだ。



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