第27話

 山の上の方が雲に隠れているので場所が確定できないが46層への階段がある場所は頂上なのかそれとも8合目辺りなのか分からない。そんな中では休める時にはしっかり休んで疲れを取る。ダンジョン攻略の基本だ。まだ行ける、大丈夫だ。という言葉で休憩を先延ばしにして略を進めた結果取り返しのつかない事態になることが多く、そうなった時にはもうどうしようもない。

 

 あの時休んでおけばよかったと思うくらいならまだ大丈夫と思う今でも休める場所があればしっかりと休む。この4人はそれをきちんと理解している冒険者達だ。


 4人は洞穴の中で装備チェックを終えると洞窟を出てスロープを登り始めた。雪山登山の開始だ。スロープは大人が2人は余裕で並んで歩ける幅があるが、山に木々はほとんど生えておらず横殴りの雪と風が直接4人にぶつかってくる。顔を上げるとスロープ、登山道は山の中腹に向かって伸びているがその辺りから雲か霧がかかっていてその先が見えない。登り始めると砂漠を歩いていた時よりも横風が強くなってきた。雪混じりの強い横風だ。吹雪に近い。


 さらにスロープが平らになっている場所にはSSランクの魔獣がおり下から登ってくる4人を見ては襲いかかってくる。ランディがしっかりと受け止め他の3人が最初から全力でゴリ押しで倒しては再び上を目指していく4人。


 登り始めて5時間ほど経った頃スロープの平らな部分で敵を倒すとその先に洞穴を見つける。全員駆け足になって洞穴の中に飛び込んだ。すぐに中をチェックする4人。洞穴は奥行きが20メートル程あり奥は行き止まりになっていた。


「安全地帯か?」


「そうだろう。気になるものがない」


 ローリーが焚き火の準備をする間ランディとハンクが外を警戒しマーカスはサーチ機能で周辺を探っている。


「倒した敵がREPOPしない。安全地帯の様だ」


 マーカスの声で外を見ていたランディとハンクが戻ってきた時には洞窟の奥の方でローリーが準備した焚き火が赤々と燃え始めたところだった。


「敵はいいとして寒かったぜ」


 焚き火に両手を伸ばしているハンク。


「俺たちの攻略スピードで麓からここまで5時間。普通なら6、7時間かかるだろう。ギリギリのタイミングで安全地帯を作っているな」


 予備の木片、薪を収納から取り出したローリーが言った。彼らは4人とは言え持っている装備が違う。普通のパーティよりもずっと攻撃力や防御力が高くなっておりSSランクもゴリ押しで倒して進んできた。それでも5時間掛かっている。ローリーが言う普通のパーティなら6、7時間かかるだろうというのは極めて妥当な読みだ。


「このフロアはSSランクとの戦いではなく寒さとの戦いになりそうだな」


 ハンクと同じ様に火に両手を差し出しているマーカスが言った。ランディもその通りだと言う。


「強敵をぶつけてくるだけではなく謎を解いたりこうして自然の脅威を向けてきたりと地獄のダンジョンの最深部は一筋縄ではいかないな」


 そう言ったランディは3人を見るとここで野営にするかと聞いてきた。


「そうしよう。上の状況が見えない時は休める場所があればそこで100%回復した方がいい。ランディの意見に賛成だ」


 ローリーが言うとハンク、マーカスもそれでOKだと言う。極寒の中での登山、そして格上との戦闘。洞窟を出てから5時間しか経っていないが全員かなり疲労が溜まっている。ここで無理をする必要は何もないと全員が思っていた。


 山に木が生えていないのも焚き火として使われない為だろう。いやらしい発想をしているとローリーが言うと、


「なるほどな。とことん挑戦者を痛めつけようとしている訳だ」


「ここは46層だ。まだ47、48、49と3フロア残ってる。まだまだ俺たちを痛めつけてくるぞ」


「そしてボスか。どんな野郎か分からないが楽しみだぜ」


 右手で拳を作り、それを自分の左手の平にぶつけて音を立てたハンクが言った。


 焚き火のおかげで洞窟の中が暖かくなってきた。ローリーも洞窟に入ると帽子を脱いでおり収納から食事や水、ジュースを取り出しては焚き火の周りに置いていく。休養日にしっかり買い出しをしていたこともあり収納にはたっぷりと備蓄されていた


「ここまで準備しているとはダンジョンも予想外だったろうな」


 ランディが言った。暖かい食事を摂りながらの会話だ。全員がリラックスしている。洞窟の外に目を向けると横殴りの雪が降り続いているが奥行きが20メートル程あり奥の方で焚き火をしているので寒さをそれほど感じない。


「普通なら砂漠のダンジョン攻略だから暑さ対策は出来ても寒さ対策はまず考えないだろうしな」


「俺たちだってローリーがいなかったら大変だっただろう」


「幸いにして俺の収納はそれなりに大きい。普段から大抵の物が入ってる。今回は今のところしっかりと貢献しているな」


 食事をしながら思い思いに話をする4人。雑談は良い気分転換になる。


 野営をしてたっぷりと休養をとり、4人の体調が完全に復調してから彼らは山登りを再開した。横殴りの雪は止むことが無くスロープを登っていく4人に襲いかかりそれに強風が合わさって登り始めた時よりも体感気温が更に低くなっていた。それに加えてSSランクの魔獣がスロープに立ちはだかっておりそれらを倒しながらの進軍、登山が続く。


「正面の敵を倒したら左に行くぞ」


 感覚的に6合目、いや7合目あたりにまで登ってきたかとローリーが感じていた時、先頭を歩いていたランディが振り返って声をだした。5合目辺りから霧の中を登っていくこととなり視界が極めて悪くなっている。せいぜい20メートル程だ。そして霧にも関わらず大雪であり横風は相変わらず吹きまくっていた。洞穴を出て4,5時間いやもうちょっと経っているだろう。


 ランディの声で顔を上げると登っている先で道が二股に分かれているのが見えた。右のスロープの方が道幅が広い。左は1人が歩ける程度の幅しかないが見た瞬間にローリーもここは左だという気がする。


「頼む!」


 返事をしたローリーがランディ、ハンクの順に強化魔法を掛けて戦闘が始まった。感覚的なものだが右のルートは正解ルートだが休憩できる場所がない。休憩場所は左にある。見た瞬間にランディはそう感じたのだろうしローリも同じ感覚だった。


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