第26話

 45層を攻略して2日の休養日を取った4人は。休養日明けに46層に飛んだ。階段の前には真っすぐに1本の洞窟が伸びている。


「この先がどうなってるかだな」


「ああ。地上の砂漠か地下空洞か」


 目の前にある洞窟は地面が砂を固められていた。上のフロアであった柔らかい砂ではない。それを見た4人はこの洞窟は単に向こう側に抜けるためだけの洞窟でありフロア全体が洞窟仕様になっている訳ではないと理解する。


 彼らはダンジョンの下に降りて足場が良くなることはないと知っている。


 ランディを先頭にして洞窟を進みだすと100メートル程進んだところで洞窟が右に直角に曲がっておりそこを100メートル歩くと今度は左に直角に曲がっていた。そしてその100メートル程先に出口が口を開けていた。洞窟の中に魔獣の気配は一切ない。左の角を曲がったところで足を止めた4人。


「階段降りたところから出口の向こう側の景色を見せない様にしていたんだな」


「それだけじゃないぞ」


 そう言ったローリーの言葉と同時に彼らの背後でゴゴゴと音がした。彼が歩いてきた背後を見ると左右の壁が中央に向かって動き出し歩いてきた洞窟の通路が土の壁で閉じられてた。もう階段下に戻ることができない。


「これで前に進むしかいかなくなった」


「地獄のダンジョンで常識が通用しないのは織り込み済みさ」


 退路を断たれても4人は誰も焦ってはいない。地獄のダンジョンの46層では何があってもおかしくないと知っている彼ら。背後を無視して前に進むと洞窟の出口の先の風景が目に入ってきた。


「よくまぁ色々と考えてくるぜ」


 あきれた声を出したのはランディだ。他の3人もまさかの風景に言葉が出ない。


 目の前には広大な砂漠が広がり、その砂漠に大雪が降っていた。正面のずっと先に見ているのはおそらく雪山だろう。降りしきる雪でここからははっきりとは見えないが。


 大雪が降っているせいか砂の上にうっすらと雪が積もっているがある程度以上は砂漠の上には積もらない様だ。ただ非常に寒い。砂漠のダンジョンで寒いフロアがあるとはまず予想しないだろう。そして防寒具を取りに地上に戻ろうとしても洞窟は既に閉じられていて降りてきた階段に戻ることができない。


 砂漠と繋がっている洞窟の出口付近で4人は防寒用に着替える。メンバーは常に魔法袋に予備の装備や耐寒、耐暑、雨や雪に対応できる装備を入れていた。あまり着こむと体の動きが悪くなるのでインナーを防寒用のに着替える4人。彼らは普段から準備をしているがもしそうでなかったら下層での高ランクの敵を相手にすると同時に寒さとも戦わなければならない。寒くなると動きが鈍くなり判断力が落ちる。これは暑くても同様だ。集中力が落ちれば事故の確率が上がる。


「あの正面に霞んで見えている雪山を目指せってことだろうな」


「恐らくな。まぁ起伏の上まで行けば分かるだろう」


 着替えを終えた4人は砂漠に繰り出した。ローリーはリモージュのガラクタ市で買ったつば付きの帽子をかぶっている。耐寒用のインナーと温度調整機能が付いているこの帽子をかぶると全く寒さを感じない。まさか防寒用としてかぶるとは思いもしなかったが持っていてよかったと思っていた。


 雪が降っているせいか地面は固くて歩きやすい。むしろ雪で足元が滑りがちになるが4人が履いているブーツは柔らかい砂の上を普通に歩ける仕様になっておりそれは滑りやすい地面でも効果があった。砂漠の柔らかい砂を攻略するのに必要だろうとここリモージュでしっかりとした靴を買っていた4人。底のグリップがしっかりと足の裏を固定する。


 うっすらと雪が積もっている砂漠を歩いていると視界の先に魔獣の姿が目に入ってきた。大蠍だ。今までのフロアで出現していたのよりも大きい、ランクはSSクラス。


 ローリーの強化魔法から戦闘が始まった。ランディがしっかりと蠍のヘイトを取るとすぐにマーカスが妖精の弓から連続して矢を射る。ハンクも横から両手に持っている片手剣でその胴体に傷をつけていた。


「来るぞ!」


 ローリーのその一言でハンクが蠍から離れランディは盾を構えた。直後蠍の尻尾がしなると胴体の上から尻尾を打ち下ろして来る。尾の先端には毒針が仕込まれており刺されると致命傷になりかねない毒針だ。ランディがそれを盾でしっかり受け止めると再びハンクが片手剣を振り下ろす。その後そう時間が経たずに大蠍は倒されて光の粒になって消えていった。


 4人は何もなかったかの様に砂漠を進んでいく。装備が整っているこのメンバーでは単体のSSクラスでは脅威にならない。


 起伏の上に立って前方を見る4人。雪は今や横殴りになってきていた。体感気温は氷点下だろう。ローリーは帽子を脱いでそこに積もっていた雪を払うとかぶり直す。


「砂漠にいて雪山登山か?」


 起伏の先には雪をかぶった山が見え山裾には山を登っていくスロープらしきものが見えていた。


「装備が無かったら凍死するな」


 ランディとハンクの会話を聞いていたローリー。


「山裾に行くまでも注意だぞ。敵が砂の地面から飛び出して来る可能性もあるからな」


 ローリーが全員の気を引き締めて4人は砂漠を山に向かって進みだした。既に退路は断たれている。どこに47層へ続く階段があるのかはまだ分からない。ローリーは戦闘をして進みながらも周囲を警戒していた。雪山がダミーで他にルートがあるかも知れないと左右に顔を動かせてみるが今の所違和感を感じることはない。


 数度のSSランクとの戦闘の後4歩いている人の目の前に雪山を登っていくスロープがはっきりとその姿を現わした。


 戦闘をしながら小一時間ほど歩いた彼らは雪山を登るスロープ、登山道の登り口の近くに小さな洞穴を見つける。中を見て安全を確認すると4人はその穴の中にはいる。洞穴は奥行きが5メートル程だが横殴りの雪が入ってこないだけでも少しは暖かく感じる。


 ローリーは収納から木の切れ端を取り出すとそれを山型に積んでから火を付けた。焚火だ。全員が火を囲む様にして座る。


「良く持ってたな」


 ランディが感心した声で言う。


「リゼからリモージュに移動するときにネフド砂漠を横断したんだよ。その時に砂漠は夜が急激に冷えることがあると聞いていろいろと準備していたんだ。まさかダンジョンの46層で使う事になるとは思わなかったけどな」


「そのおかげで生き返ったよ」


 両手を火にかざして暖を取っているマーカスが言った。ローリーは収納から厚手のコートを2枚取り出すとマーカスとハンクに渡す。


「これもその時に準備したものだ。俺はローブに温度調節機能が付いている帽子もそうだ。インナーも着替えている。ということでそれほど寒さを感じない。2人が仮眠する時に使ってくれ」


 ありがたいとコートを手にもつ2人。ランディはアーマーに温度調整機能が付いているのを知っている。ランディは問題ないというのでハンクとマーカスの2人にコートを渡すと暖かいスープと食事を取り出した。


「しっかり休んで行こう。恐らくずっと雪が降ったままだと思う」


「ここが最初で最後の安全地帯になるかもしれないしな」


 スープに手を伸ばしたランディが言った。


「その通り」


 たっぷりと食べて休もうぜと4人で食事を腹に入れると焚火の火を消さない様に交代で仮眠を取る。ローリーが焚火や暖かい食事を用意していたので洞穴の中は暖かくしっかりと休むことが出来た。もし何も用意せずにこのフロアの攻略をしていたとしたら大雪と低温で身体が思う様に動かずSSランクに倒されるか凍死していただろう。

 

 洞穴にたどり着けたとしても火元がないと雪を避けているだけで洞穴の中はずっと冷えたままであり、何よりここを出てからさらに寒い雪山を登っていく気力も体力も湧かなくなるのは間違いない。地獄のダンジョンの最深部は冒険者の心を折ろうとあの手この手と繰り出してきていた



 仮眠をして十分に休憩を取るともう1度軽食を摂ってから山登りの準備をする。雪山をどれくらい登っていくのかは予想もつかない上にそのルートには魔獣が待ち構えているのは間違いない。厳しい雪山登山になりそうだ。

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