第25話

 休養日の2日目、ドロシーらが宿に戻ってきた。44層を力技で攻略したらしい。疲労感と達成感が混じったか顔をしている女性達。宿の食堂でランディらと一緒に食事をとりながら情報交換となる。これはもうこのリモージュの街での彼らのルーティーンになっていた。


「私達が44層をクリアする間にランディらは46層をクリアしてると思ったけどね。思いのほか時間が掛かったんだね。それともそんなに45層がややこしいって事?」


 ドロシーが言うと男全員が顔を見合わせてからランディが言った。


「45層は力技じゃないフロアだった。ヒントを見つけられなければ永遠に出られないだろう。40層の砂漠のフロアよりもえげつないフロアだった」


 そう言ってから


「どうする?ヒント無しで自分達で挑戦するか?それともヒントを貰って攻略するかい?言っておくがヒントが解けないと永遠、本当に永遠に45層を彷徨い歩くはめになる。これは間違いない。もう1つ言うとそのヒントを見つけて解けたのは俺達の中じゃあローリーだけだった。もしローリーがいなかったら俺達は今でも彷徨っていただろう」


 これは誇張でも何でもないんだと言うランディ。マーカス、ハンクも本当によく考えろと言っている。


 男性陣は女性陣からヒントを教えて欲しいと言われるまでは攻略したフロアの情報は彼女らには開示していない。43層、44層はそう言う意味では彼女らは自分達の実力で攻略し、クリアしてきている。2パーティで地獄のダンジョンを攻略してボス戦を2度やることで蘇生薬のドロップの確立を上げるというのはこの合同の目的だがだからと言って全ての情報を開示する必要はないとドロシーらが言っている。実際そう言い切るだけの実力を持っている女性5人だった。



 付き合いの長い2つのパーティの間の垣根は低い。彼らがよく考えろというからには相当ややこしいギミックが隠されているのだろう。自分達5人で果たしてそれが解けるのか。ケイトは話を聞きながら時折ローリーに顔を向けるが彼はいつもの同じ表情でフォークで野菜や肉を指しては口に運んでいた。


「ローリー」


 声を掛けられた彼は顔を上げ、ケイトを見る。


「クリアに何日かかったか教えてくれる?」


「最終的に丸3日かな。最初は結局45層に降りた階段の場所に戻ってきてそこから地上に戻ってきた。その後再び攻略して丸2日かけて何とかクリアしたよ」


 頷いてからそう言ったローリー。


「今の言葉にも何かありそうね。丸1日攻略して最初の場所に戻って地上に戻ってきたって事でしょ?」


「そうだよ。初日は1日動いて最後はフロアの最初の場所、階段を降りた所に戻ってきた」


 その言葉を聞いてまた女性5人で顔を突き合わせて話をする。どうやら結論が出た様だ全員がこちらに顔を向けた。


「まだ死にたくないしね。今回はヒントをお願いしていいかしら」


 パーティを代表してドロシーが言った。それが正解だよとランディ。ローリーも黙っていたがその方が良いだろうと思っていた。Aランクとしてのプライドは当然あるだろう。ただ自分達の実力もしっかりと把握した上で自分達の足りない所を認めて助力を求めてくるのも大事だ。流石にAランクでも上位に位置するパーティだ。プライドが邪魔をして結果死んだら元もこもない。


 ローリー頼むよという声で彼が女性達を前にしてマップを広げつつ45層の説明を始めた。助力を求められた以上は中途半端な説明はしない。しっかりと説明をし質問が出るとそれに対してローリーはじめ他のメンバーが真摯に答える。


「聞いてよかった。私達だけだったら無理でしょう、これ」


 ローリーの説明を聞き終えたドロシーがケイトを見て言った。カリンとルイーズもそのあまりの鬼畜仕様にびっくりした表情だ。


「無理ね。これは読み切れない。ローリーだからこそよ。ダンジョンがループ状になってるって言った時点で普通ならパニックになる。そして渦の巻き方や渦の速度。普通はそこまで見ないもの」


「このルートが最適かどうかは分からない。ただ一番奥の通路を右でも左でも進み始めた後は絶対に方向転換してはダメだろうと思うんだ。ひたすら真っすぐに歩いて敵を倒しながら十字路を越えてずっと真っすぐに進むってのが次のフロアの階段が現れるトリガーになっている気がする」


 なるほどと言った表情になるメンバー。ランディからは余裕があるのなら最初の十字路を左に曲がってひたすら左壁沿いに歩いてみたらどうだ?一周回ってスタート地点に戻ってくるのが実感できるぜと言う。


「それはそれで経験してみる手もありよね」


「まぁね。それにしてもよくまぁ見つけたわね。分かってはいたけどこうして聞くとローリーが普通じゃない人だってよく分かるわ」


 ケイトは心底感嘆していた。40層の砂漠での事、そして45層の今の話。最初からそこに注意すれば見つけることが出来るかも知れないが全く知識が無い中でマッピングしながらヒントを探しそれを見つけて解いて正解を導き出す。冒険者はどうしても戦闘能力だけに目が行きがちだが実際には戦闘能力と同様、いやそれ以上に知力が大事になってくる。ぬるいダンジョンや地上の同格ばかり倒している冒険者には分からないだろう。ローリーは難易度が高いダンジョンに挑んでこそその能力が発揮されるの冒険者なのだと。そしてこの様な冒険者が本当の冒険者というのだ。武力と知力が優れていないとトップには立てない。


「適材適所だよ。俺はこういうのが得意というだけだ」


 そう言うローリーだがどちらかと言えば脳筋寄りの他の3人、いやビンセントもいるから4人か。彼らから見れば彼は異質の冒険者に見える。そしてローリーがいるからこそ他のメンバーは脳筋全開で力技で相手をねじ伏せてこられたともいえる。その戦闘スタイルは向かいに座っている女性5人も十分に理解していた。


「俺とランディはこの地獄のダンジョンが3つ目だ。3つ目ともなるとフロアの特徴というか癖を掴みやすくなる。100%じゃないけどな。ここ流砂のダンジョンはまだクリアしていないがそれでも45層まで攻略した感覚から言うとこのダンジョンはツバルにある火のダンジョンに近い。謎解きのフロアが多いが魔獣の強さはそれほどでもない。一番いやらしい敵がいたのは龍峰のダンジョンだ。その代わりに謎解きを必要とするフロアがほとんどなかった。そう言う意味では龍峰のダンジョンが異質なのかもしれない。あとはクイーバの大森林のダンジョンだな。あそこがどっち寄りかはわからないが」


「確かにな。ツバルのダンジョンもいやらしいフロアが多かった。ローリーがヒントや規則性を見つけてくれなかったら路頭に迷うフロアがいくつかあった。ここもそうだ。ただまだ45層だ。これから下がどうなってるのかはまだ分からないけどな」


 ランディの言う通りだ。地獄のダンジョンは40層から下に降りると1層ごとに急激に難易度が上がる。敵の強さも上がるだろうしギミックもより複雑、いやらしくなるだろう。まだまだ自分達の想像もつかない罠や敵が待ち構えているかも知れない。


 このパターンになると強い。このパターンが来ると弱い。これでは本当に強いパーティとは言えない。敵についてもしかり、ダンジョンについてもしかり。どの様な相手やダンジョンで会っても臨機応変に対応し結果を出すのが本当に強いパーティなのだ。

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