第29話

 ローリー達が46層の攻略を開始したのと同じ頃、ドロシーら女性5人は45層を攻略していた。


「スタート地点に戻って来たわね。ループ状になってる」


 彼女たちは階段を降りると右のルートを常に右壁に沿って歩き出し、魔獣を倒してそのまま進んでいると通路の右側に45層に降りる階段のある場所に戻ってきたところだ。降りてきた階段の場所に戻ってくるとその階段に座ったドロシーが言った。他のメンバーも階段に思い思いに座って水分を補給している。


「さて、これからはローリーの指示通りに行くよ。勝手な事をして無限ループにはまりたくはないからね」


 しっかりと休養をした5人はリーダーのドロシーの言葉で立ち上がると階段を降りた先の通路を真っすぐに進みだした。突き当りにぶつかるとその奥の流砂の渦を覗き込む5人。


「普通はこれを見るとああ、流砂渦だ。気を付けないと。で終わっちゃうよね」


「今まで砂漠でいくつも流砂渦を見てきたけど渦が巻いている方向なんて気にもしたことがなかったわ」


「だからローリーは優秀なのよ」


 ケイトがそう言うと周囲を警戒していたドロシーを見る。


「彼らと同じ左に真っすぐ進む?」


「そうしよう。リスクは犯したくないからね」


 装備を点検した5人は行き止まりを左に今度はひたすらに真っすぐ進みだした。4時間程で渦のある十字路についてその渦の向きを見てさっきと逆回りであることを確認する。そこで休憩した後は再び左に真っすぐに歩き今度は5時間程経つと再び流砂渦がある十字路に着いた。ここで大休憩を取る5人。


「注意して見ていたからここが最初の渦と違うというのは分かるけど初見じゃ無理ね。渦の速さなんて見てないもの」


 カリンが渦巻を覗き込みながら言った。


「洞窟というか通路が本当に皆同じというか変化が無いのがきついわ。これ精神力を削がれる。ローリーの言葉がなかったら全然進んでいないってなって気がおかしくなっていたかも」


 ルイーズが言うと全員が本当よねと続けて言った。


「私もそうだよ。歩いているとこれで本当に合っているんだろうかとかどこまで真っすぐなんだろうとか。そのうちには私今歩いてる?と足元見てしまうもの。同じ景色が延々と続くのってきついわね」


 ドロシーが言うと大きく頷く5人。


 彼女たちは休憩を終えるとそれからさらに5時間以上歩いてようやく下に降りる階段を見つけた。全員が安堵の表情になる。


 降りた先は洞窟が奥に伸びていた。奥がどうなっているのかは薄暗くてこの場所からは見えない。この洞窟の先がどうなっているかちょっと覗いてみようかと誰かが言ったが


「奥に魔獣がたむろしているかも知れないしここは一旦帰りましょう」


 リーダーのドロシーの声で全員階段下にある石盤にカードを照らせてそのまま地上に戻ってきた。





「ドロシー、それはナイス判断だぞ」


 彼女たちが宿に戻るとちょうどランディらも少し前に宿に戻ってきた所だった。シャワーを浴びた9人はリモージュ市内のレストランの個室に入った。この街も長く居るといろいろと街にも詳しくなってくる。このレストランは女性達で入ったことがあり味が良かったのと個室があったのを覚えていたらしい。ちなみに男4人は武器屋や防具屋には詳しくなったが食べ物関係はさっぱりだ。全員が食べ物にはそれほど執着していない。というか全員が無頓着だ。


 個室で各自がオーダーを済ませるとドロシーが45層の報告をし最後に46層の洞窟をちょっと見てみようかと言ったのをやめて帰ってきたのよと言うとランディがナイス判断だぞと言ったところだ。


「どう言うこと?あのまま洞窟を進んじゃダメだったってこと?」


「これもヒントになるがあのフロアについてはヒントは事前に言っておいた方がいいだろう。出ないと間違いなく命に関わってくる」


 ランディはそう言ってからローリーに顔を向けてそうだよな?と念を押す様に聞いてきた。その言葉に頷くローリー。ドロシーとケイトが命に関わるのなら教えて頂戴とローリーに言う。


「皆は防寒設備、耐寒設備は常時持ってるか?」


 ローリーがそう言うと女性5人が顔を見合わせた。一応持っているという彼女たち。砂漠での夜の野営に備えて各自の魔法袋に最低限の防寒装備入れているという。答えながらも流砂のダンジョンで防寒装備ってどういうこと?と言った表情だ。それを見ていたローリー、少し間を開けてから言った。


「46層は雪山登山だ」


「「!!」」


「しかもあの45層から階段を降りて洞窟を少し歩くと背後で壁が左右から伸びて完全に閉まってしまう。そうなるともう46層に降りた階段に戻る手立てはない。退路が断たれるんだ。そして洞窟を抜けると砂漠に雪が降っていて砂漠にも積もっている。その砂漠を通り抜けてから高い雪山を登っていかなければならない。山は常に強風と大雪が吹き荒れてブリザードに近い状態になっている。そして上に登っていくと霧が掛かっていてさらに視界がガクンと落ちる。そんな中SSランクの魔獣を倒しながら山を登っていかなければならない。中途半端な防寒装備じゃ耐えられない寒さだ。凍死するのは間違いない」


 一気に話をしたローリーはテーブルの上にあるジュースに口をつけた。


「貴方達は防寒装備を持ってたの?」


 話が終わるとドロシーが言った。


「ローリーの収納に厚手のコートの予備があった。俺たちは砂漠の暑さ対策でこの街で性能の良い温度調節機能が付いているインナーを買い揃えていたんだよ。あとは安全地帯でローリーの収納に入っていた薪を使って火を焚べて暖をとった」


 薪を持ってたの?とランディの言葉で女性5人が再びローリーに顔を向けた。どうして薪を?という全員が驚いた表情だ。


「ネフドの砂漠を縦断する時に砂漠は昼は暑くて夜はすごく冷えると聞いていたから万が一に備えて薪を持っていたんだよ。それがあって助かった。無かったらと思うとぞっとする。厚手のコートは自分のお古だ。俺とランディは防具自体に温度調節機能がありインナーもそうだ。そして俺の帽子にも温度調節機能がついている。ハンクとマーカスはインナーだけだったから休む時はコートを着ていた」


「コートがあるだけでも全然違う。それにローリーが薪を持っていて火を焚べてくれたんで休憩中は寒くなかった。ただ移動中は死ぬほど寒かったよ。少々剣を振って身体を動かした程度じゃ体の中が温まらない。それくらいにきついブリザードだった」


 ローリーに続いてハンクがその時を思い出しながら言った。


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