第30話

「ちょっとどんな感じか様子を見てみましょうと思って軽い気持ちで洞窟を歩いていったら背後が壁の様に閉まってしまう。洞窟の先を見て雪だと防寒装備を取りに戻ろうと思ってももう戻ることができない。こういうことね」


 ケイトの言葉にその通りだと男性4人が頷いた。


「そして雪の砂漠はともかく雪山登山になるとブリザードと霧そしてSSランクの魔獣を相手にする。確かに普通の装備だけだと凍死しそうね」


「凍死しそうじゃないんだ。間違いなく凍死するだろう」


 ランディがケイトの言葉に答える。


「すごいフロアね」


「魔獣の討伐だけを見ればそれほど難易度は高くない。SSランクだが常時1体しか出てこない。リンクもしない。46層は力技でもなく謎解きでもない。ただひたすらに自然の脅威を見せつけてくるフロアになっている」


 ローリーの言葉に頷く5人。ここは暑い砂漠の国ネフドの流砂のダンジョンだ。暑さ対策には気を使うのはもちろんだが逆に言えば暑さ対策しかしていないのが普通だろう。まさかこのネフドでネフド人すら見たことがないであろう大雪、ブリザードが吹きまくっているフロアがあるなんて誰も思わない。


 洞窟を出て雪だと思った時にはもう遅い。退路は断たれている。あとは前に進むしかないが生半可な防具だとブリザードに耐えられないし安全地帯を見つけたとしても暖が取れなければ疲れが取れない。


 地獄のダンジョンの深層部になるとこちらが想像もできない仕様で挑戦者を痛めつけようとしてくる。


「そっちはアイテムボックスを持ってたよな?」


 ローリーが言うとあるわよと言ったのはルイーズだ。僧侶の彼女が1つ持っている。リゼにある難易度が高いダンジョンをクリアした時にボスから出たドロップの1つだ。めったに出ないレア中のレアアイテムとされているアイテムボックス。ランディらのパーテイは誰も持っていない。そのかわりローリーが収納魔法という賢者専用の魔法を会得していた。


「砂漠での夜の寒さどころの騒ぎじゃない。体感気温は氷点下でこれは外にいる限り1日中ずっと続く。本格的な防寒装備を準備した方が良いぞ。アイテムボックスには暖かい食事、薪や毛布などしっかりと暖を取れるアイテムを多めに入れておくと良いだろう。あと足元が歩きにくい」


 そう言って自分の靴を見せるローリー。


「これは足首まできっちり締めてくれるので砂が入らない。砂漠用に買ったんだけど靴底もグリップが効いていて滑らないんだ。雪山の登山でも十分に役にたったよ」


 彼らがこの靴を買った店を言うと自分たちもそこで靴を買って準備すると言う。帽子もあるとないとはかなり違う。温度調節があればベストだが最悪なくても帽子は頭を少しでも暖かくしてくれるから必須だとアドバイスする男性陣。


 ルイーズが男性陣のアドバイスをメモしている。生死に関わる問題だ。買うのを忘れたり持ってくるのを忘れたりすると取り返しがつかない事態になる。


 女性は全員帽子も買うことにした。それがいいとランディらも同意する。帽子があれば雪を少しでも遮ることが出来、何より頭が冷えすぎない。


「45層もそうだったけど46層も初見殺しのフロアになっているのね」


 メモを書き終えたルイーズが言うと本当ねとドロシーらも言う。


「47層は見た限りだとまた灼熱地獄の感じだ。ギミックまでは分からないがまともじゃないだろうな」



 その後は彼女らがクリアした45層の話になった。事前にしっかりとヒントと攻略方法を聞いていたので攻略は問題無かったと言う。


「でもあの通路は精神的に来るわね。ずっと同じ景色がいつまでも続くんだもの」


「Sランクの魔獣もどれも同じタイプだしね。全く変化が無いのよ」


 何も知らずに挑戦したら精神的にやられて仲間割れしていたかもしれないとケイトが言った。


「どこに行っても同じとなるとあっちだ、いやこっちの方がいいんじゃないとなって意見が分かれてもめるのは間違いないわ」


 彼女の言うのが一般論としては正しい見方なのだろう。ケイト曰く自分たちも間違いなくそうなっただろうと言う。


「俺たちにはローリーがいるからな。今まで何度も彼には助けられている。全員、ここにいないビンセントも含めて俺たちは攻略の時はローリーを100%信じて動いている。これは最初から今までも変わっていない」


 ランディがそう言うとハンクとマーカスも続いて言う。


「ローリーは俺たちのパーティの中でのただ1人の後衛ジョブだ。あとは俺も含めて全員が前衛で目の前の敵を倒すのに専念している。俺たちはローリーの指示に従うって最初から決めていてそれで今までやってきた」


「その通り。そしてそのやり方で俺たちがローリーに不満を持ったことはない」


 ローリーは俺は後ろで暇だからなと言ったがそれが謙遜であることはここにいる男性はもちろん女性陣も全て知っている。1人で2人、いや3人分の仕事を平気な顔をしながらこなしていくローリーの有能さはここにいるメンバーだけじゃなくリゼのギルマスはじめ冒険者の間でもつとに有名だ。


「参謀は1人じゃなくてもいいんだ」

 

 ローリが言うとどういうこと?と女性達が彼を見た。


「方針の決め方を徹底しておけばいい。俺たちのパーティはまぁ俺が言うと皆納得してくれる。でもこれがベストかどうかは別の話だ。パーティメンバーの人間関係なんてパーティごとに違うからな。だからたとえばドロシーらのパーティで迷った時にはこうするという方針を決めるんだ。たとえば迷ったらケイトに従うとか迷ったら全員で話をして決めた結論に文句は言わないとか。方針、やり方がぶれなければいいんだよ。1人に任せたけどダメだったから今度は全員で相談しようか。でもそれも上手くいかなかったからじゃあ今度は別の人に任せてみよう。これだとパーティは成長しないと思う。そっちも固定メンバーで長くやってる。お互いの性格なんて皆知ってるんだろうしそのあたりはしっかりと話合えるんじゃないの?」



 レストランでの食事を終えた後ドロシーら女性5人は部屋で話あった。今までもおおよその役割は決めていたが今日の話、そしてクリアしてきたダンジョンとこれから挑戦する46層の話を聞いてここではっきり役割を決めようと言うことにする。皆で話あった結果パーティのリーダーは引き続きドロシー、参謀はケイトでということを確認しあう。


「ケイトに丸投げって訳じゃないから安心して。最終判断が必要な時にはケイトに従うよってことだから」


「そうそう。それに今までも戦闘中の指示とかは問題なかったし今まで通りでやってくれていいわよ」


 他の4人からそんな風に言われたがケイト自身はこうして明確に役割を与えられた以上他のメンバーに迷惑はかけられない。少しでもローリーに近づくべく努力をしないとと気持ちを引き締めた。


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