第31話
翌日から2日は2つのパーティともに休養日となった。2日を完全休養日にして疲れをとって体力と気力の回復にあてる。そして女性陣は雪山登山に備えて防寒装備の充実だ。
2日目の昼過ぎ、ローリーが外から宿に戻ってくるとフロントに隣接している食堂から手を振ってくる2人の女性がいた。ドロシーとケイトだ。2人とも冒険者の格好をしている。ドロシーは大柄な身体をナイトの装備で纏い、ケイトは身軽そうで動きやすいアーマーを着ていた。どちらかと言えば男尊女卑の傾向のある砂漠の国ネフドでは冒険者の女性はそのままの格好の方が男達から無用な声をかけられない。冒険者は別だという意識がこの国の男達の中にある。
「相変わらず休養日は完全に別行動をとっているのね」
誘われて同じテーブルに座るとドロシーが言った。ちなみにローリーはいつもローブを着て冒険者の格好だ。
「それは以前から変わっていない。そっちはそう言うのは決めて無かったんだっけ?」
「基本は自由行動よ。今日はたまたま宿を出るタイミングがケイトと一緒だったからそのまま街に出ていたの。ついさっき戻ってきてここでお茶してたのよ」
確かに2人の前にはグラスに半分程になっているジュースが置かれていた。ローリーもレストランの給仕にジュースをオーダーする。2日でしっかりと休んでいるのだろう。2人とも表情に疲れが見えない。
「買い物は済ませたのかな?」
「ばっちりよ。少々のブリザードでも問題ないわね」
「事前に聞いているからね。薪はもちろん、食料や温かい飲み物、水はルイーズのアイテムボックスに入れて他の装備品は各自の魔法袋に入れている」
「それなら大丈夫だろう」
ケイトとドロシーの言葉を聞いて安心する。過剰ではないかと思えるほどにしっかりと準備することも大事だ。ドロシーらもAランクの上位のパーティだ。想定される困難を予想して準備しているだろう。
「せっかくここでローリーに会ったから相談というか聞きたかったことがあったんだよ」
ローリーはそう言ってきたドロシーに顔を向けた。
「あまり言いたくはないんだけどね、この流砂のダンジョンでもし蘇生薬の天上の雫が出なかったら次はどうするのかなと思ってさ」
それはローリーも考えていたことだ。今までが順調すぎると感じていた。レア中のレアアイテムである蘇生薬が龍峰のダンジョン、そして火のダンジョンでは2つドロップしている。おそらく異常な確率だろう。普通ならこれほどの頻度でドロップするとは思えない。何せそれまで存在自体が幻だったアイテムだ。しかも自分たちだけで3つも手にしている。偶然はいつまでも続かない。他のメンバーがどう思っているのかは知らないが毎回出る様なアイテムではないと確信しているローリー。
「気を悪くさせたのならごめんね」
ローリーが黙っているのを見てそう取ったのかドロシーが謝ってきた。
「いやそうじゃないんだ。実は俺もそれを考えていたんだよ。今までが幸運すぎるんだよ。蘇生薬なんて普通はまず出ないアイテムだろうと思っている。だからここの流砂のダンジョンでこっちとそっちのパーティがボスを倒したとしても出ない可能性が十分にあるなとは思っていたし出なかった時の覚悟もできている」
ローリーの言葉を聞いてホッとした表情になるドロシー。隣のケイトも同じ表情になった。
「出なかったらもう一度流砂のダンジョンに挑戦するのかい?」
「それもありなんだけどな」
「クイーバに行くつもりなの?」
ネフドとナタール河を挟んで向こう側がクイーバだ。そこには通所大森林のダンジョンと呼ばれている地獄のダンジョンがある。
「龍峰、火、そしてここ流砂。クリアしたところをもう1度やるのは攻略としたら楽だろう。でもな、地獄のダンジョンは初見でクリアした時の報酬が一番良いんじゃないかと思っているんだ。これは俺の思い込みで何の根拠もないんだけどな」
ローリーは地獄のダンジョンを攻略していて地獄のダンジョンというのは通常のダンジョンに比べて難易度ははるかに高いが、一方でダンジョンの意思、意図がもっとも表れていると感じている。地獄のダンジョンでもちゃんと実力と知力があれば攻略できるぞ。挑戦してみろという意思だ。
そう考えた場合2度目になると1度目よりは間違いなく楽にクリアできてしまい、それはダンジョンの意思と反することとなる。
その結果がドロップに影響するんじゃないか。そう考えていた。
ただこれはローリーの個人の感覚だ。他の人に言わせると一度クリアしているのなら攻略が楽になるからそこを何度も挑戦してボスを倒してドロップの確率を上げた方がいいんじゃないかという考えもあるだろう。
ただ、もしその確率、2度目以降に出る確率が元々0だとすると何回やっても0なのだ。
この感覚を他人に説明するのは難しい。
「ローリーの言うことも理解できるわよ。並のアイテムならそのアイテムのドロップ狙いで何度も同じダンジョンに挑戦するのもありでしょうけど探しているアイテムは並じゃない。レア中のレア。となると出るとしたら初回だけかもしれないわね」
ケイトが言うと言われてみればそうかもとドロシー。
「他のメンバーとも話をする必要があるがもし流砂のダンジョンで出なかった、ドロップしなかったとしたら俺は他のメンバーにクイーバ行きを勧めるつもりだよ」
そう言ってからそっちは流砂のダンジョンをクリアしたらどうするんだと聞いた。
「一度リゼに戻らないといけないのよ。ギルマスのダニエルにはローリーの手伝いでネフドに行くことは伝えてあるけど長期間リゼを留守にするとあっちのクエストの消化が落ちるでしょう?」
リゼでは自分たちとドロシーらのパーティが冒険者の頂点にいる。元々ランディは頂点云々よりも自分たちが強い敵やダンジョンに挑戦することに軸足をいて活動をしていたがドロシーらはギルドと連携しながらクエストを処理していた。その彼女達が長期に渡って不在となれば難易度の高いクエストが溜まっていくだろう。
「リゼではこっちは好き勝手やっていからそっちにはいつも迷惑かけていたよな」
「それはいいのよ。クエストも私たちは好きでやってたから。そうじゃなかったらランディにこっちも手伝いなさいよって文句言ってるわよ」
ドロシーが笑いながら言う。彼女の気遣いが伝わってきて頭を下げるローリー。
「でもそんな訳で一度リゼに戻るの。それで私たちはそのままリゼに留まって龍峰のダンジョンを攻略しようと思ってるの」
なるほどと感心するローリー。彼女らは確か龍峰のダンジョンは40層まではクリアしている。新たに1層から攻略するよりもそちらの方が良いだろう。しかも龍峰のダンジョンは力技で進める、以前よりも実力が上がっている彼女達なら50層まで降りるのは難しい話じゃない。装備も充実してきている。
「今のドロシーらなら問題ないだろう。あそこは力技だ。ボスの行動もわかっている。蘇生薬が出たら教えてくれ」
「もちろんよ。でもその前にここをサクッとクリアしちゃいましょう」
ケイトが明るく言った。
ローリーはそうだなと言ってからもう一度2人に頭を下げた。
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