第6話

 休養日明け、ツバルにいる4人は24層の攻略を始めた。ここまで降りてくるのはほとんどいない。攻略済みの階層は26層だがそこまで攻略していたパーティは既にこのダンジョンの攻略をストップしているらしく24層から下には今は誰もいないという状態だ。


 ダンジョンはある程度まで熱くなるとそれ以上は熱くはならないが湿度が高く蒸し暑いフロアになっている。カイとケンはローリーとランディのアドバイスもあり20層をクリアした時点で温度調節ができるインナーを購入していた。ランディは既に持っており、ローリーも持っているがそれよりも手に入れたローブに自動温度調節機能が付与されているのでローブ1枚で対応している。


「インナーがなければ汗だくになっていたところだ」


「汗が出ると気持ちが不快になる。更に汗が目に入ると一瞬視界が奪われる。下層に降りるとその一瞬が命取りになるからな」


 24層の中にある安全地帯でしっかりと水分補給をしている時にカイとランディがやりとりをしていた。


「それにしても徐々に敵が強くなってるな。今でAとSの間くらいのレベルだろう?」


 ケンが水を飲んでから言った。ローリーの収納魔法にはこれでもかという位に水や食料が入っているので気にせずに水分を補給することができる。


「龍峰のダンジョンからの推測になるが」


 そう言ってランディが2人の忍びを見る。25層位まではこのレベル、26層からはランクS、30層からはSとSSの間、40層からはSSとそれ以上、そしてボスというイメージだという。


「基本はそれだがランクが同じだとしても下に降りて行くとそれが複数体で出たり連続して出たりしてくる。1体の攻略に時間をかけるとどんどんリンクしてそこで詰んでしまうんだ」


 彼の話をじっと聞いているカイとケン。事前の情報があるだけでその心構えがしっかりと出来る。


「出し惜しみしてると死ぬ。持てる力やスキルを全開で進めていかないと特に40層から下には進めない」


「常に全力でってことだな」


 カイの言葉にその通りだと頷くランディとローリーの2人。


「それにしてもランディの盾、ローリーのローブが無ければもっと苦労していたんだろう」


 ケンが言うと2人で顔を見合わせるランディとローリー。


「その通りでね。今まで言っていなかったが龍峰のダンジョンを攻略した時はもっと苦労して降りていった。装備が変わったことによってどうだろう俺たち2人の感覚だと龍峰のダンジョンなら10層か11層を攻略している感覚でこの24層を攻略している感じだな」


「それほどまでに違うのか?」


 ランディの言葉に驚いた声を出した2人。そうなんだよとローリーが続ける。


「普通ならもっとランディが疲れているしこっちももっとしっかりと休憩しないと攻略できない。ただ盾とローブのおかげでそれほど疲れないし魔法の威力も落ちない。今言ったランディの言葉は大袈裟でも何でもない。ただ、だからこそ慎重になるべきなんだ。行けると思って油断していると足元を掬われる。そして足元を掬われた時にはもう遅い」


 その通りだとランディが言った。2人の忍も今の話を聞いて油断はせずに今まで通り慎重に進もうと気合を入れた。


 この日は24層、そして25層まで攻略して地上に戻ってきた4人。宝箱を探すことはせずに出来るだけ最短距離で次のフロアに降りる階段を探しながらの攻略だ。4人の目的はこのダンジョンのクリアであり、金策ではないと理解している。


「明日はしっかり休もう。恐らく次の26層あたりからランクSが出てくるからな。敵の攻撃パターンも変わってくるかもしれない」



 東の島の街に戻ってそこのギルドに顔を出した4人はカードを出して精算をする。それまで一度も顔を出していなかったギルドに入ってきた時はそこにいた冒険者達の視線が一斉に4人、特にランディとローリーに向けられた。


 ギルドのカウンターにいる受付嬢が4人のカードを読み取ると表情が一変した。


「すみません。ギルドマスターと会って頂けますか?」


「わかった」


 カイが答える。この国のギルドとのやりとりについてはカイとケンに任せようとギルドに入る前に話し合っていた4人。受付嬢に続いてカウンターの奥にある会議室に案内される。ギルドの造りはどの国でも大抵同じだ。


 しばらくすると会議室の扉が開いて大柄な男が入ってきた。この国特有の黒髪で黒い瞳だが服装はシャツにズボンといったいわゆる2人が知っているギルドマスターの格好だ。


「待たせて申し訳なかった。この東の島のギルドマスターをしているタクミという」


 そう言って右手を差し出してきた。彼は握手の習慣を知っているらしい。カイとケンは顔馴染みだということでランディとローリーが握手をして自己紹介をする。椅子に座るとタクミが話しかけてきた。


「大陸中のギルドに通達が回ってきている。トゥーリアにある龍峰のダンジョンをクリアしたパーティがいるとな。その名前と今聞いた名前が同じだがお前さん達なのか?」


「その通り。俺たちが龍峰のダンジョンをクリアした。ただその時に他の3人が怪我をしちまってね。大怪我でしばらく動けない。なので2人と此処にいる2人の忍びの4人でツバルの火のダンジョンの攻略にやってきたんだよ」


 ランディがスラスラと答えていく。この回答は2人になった時にもし今後聞かれた時にはこう答えようと決めていたものだ。


「なるほど。それでここツバルの忍と組んだんだな」


「というか俺たちがこの2人に声をかけたんだよ」


 カイがそう言った。カイとケンは方便ではなく実際にその通りなのでありのままの話をする。地獄のダンジョンに行きたいのと行きたくないのとでパーティ内で揉めて解散したこと。そこからメンバーを探しにネフドに出向いた時にこの2人と会ったことなど。


 カイの話を聞きながらギルマスのタクミは騎士の姿と魔法使いの姿をしている2人をチラチラと見ては観察していた。確かに他の冒険者とは違うオーラというか風格がある。ギルドカードもSランクだ。そして持っている装備も一目見て相当な業物だというのがわかる。


「事情はわかった。カードを読み取ると25層までクリアしている様だな。様子はどうだい?きついか?」


「正直そうでもない。ギルマスなら気がついているだろうが俺の盾とローリーのローブは龍峰のダンジョンのダンジョンボスを倒して得られたものだ。効果が半端ないんでね。それと忍の2人のスキルが高い。確かここは26層まで攻略されていると聞いている。申し訳ないがすぐに俺たちが攻略記録を更新するよ」


 あまりにあっさりと言ったせいかギルマスがんん?と言った表情になった。


「記録を更新する…そう言ったんだよな」


 確認する様にゆっくりと話をしてくるギルマス。そうだよとこちらは再びあっさりと答えるランディ。


「ギルマス、この2人は俺たちが知っている冒険者とは全くレベルが違う世界の2人だ。ランディの盾とローリーのローブ。これだけで実質4人分くらいの能力がある。そしてローリーの魔法だ。ツバルの国お抱えの魔法使いが赤子に見えるレベルだ」


 カイが話すのを聞いていたギルマスの表情が変わっていく。カイもケンもこの国ではAランクの上位の忍だ。名前は有名だし自分自身もよく知っている2人だ。その2人がこのトゥーリアから来ている2人を手放しで褒めちぎっている。


「俺たちはこの火のダンジョンをクリアすべくやって来ている。アイテム狙いじゃないんだ。だから時間はかかるだろうが最下層目指して攻略する予定だよ」


 ランディはそう言い切った。


「わかった。ランクSとAのパーティだ。攻略に制限はない、好きに動いてくれ。できれば定期的にここに顔を出してダンジョンの様子を報告してもらえると嬉しいんだが」


 それくらいはお安い御用だと言うランディ。毎回ではないが適当に顔を出して報告しようということで4人はギルマスとの面談を終えた。

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