第7話

「これで義理は果たしたな」


「それよりも大怪我か。良い理由を思いついたものだ」


 ギルマスに挨拶をした後、市内のレストランで夕食をとっている4人。カイが感心した表情で言った。隣でケンも頷いている。


「このストーリーは前からローリーと話をして決めていたんだよ。余計な詮索はされたくないからね」


 ランディの説明に頷く忍の2人。その後食事を摂るために東の島の中心街にあるレストランに入った4人。カイによるとここは料理は美味いが値段が高いせいかいつも空いているという。高級店なのだろう。テーブルとテーブルとの間隔が広い。席がゆったりと配置されているので隣のテーブルの声も聞こえにくくなっていた。今の4人にはちょうど向いている店と言える。


「良いレストランだ。何より飯が美味いな」


 新鮮な魚料理を口に運んでいるランディが言った。隣のローリーも口を動かしながら頷いている。


「味はいいんだよ。ただ値段がな」


「金は関係ない。俺たちはそこそこ持っている。美味い物が食えて落ち着いて話ができるし俺は気に入ったよ」


 ランディが言った。ローリーが元々ランクAでお金はそれなりにあった上に龍峰のダンジョンのボスの魔石が金貨3,000枚でギルドが買い取ったというとツバルの2人がびっくりした表情になった。


「3,000枚?普通のダンジョンの10倍以上の値段じゃないか」


 ケンがびっくりした表情で言った。


「その通り。魔石はでかくてそして地獄のダンジョンのボスの魔石ということでレア中のレア扱いになるらしい。恐らくここのダンジョンボスの魔石もそれくらいの価値になると思うぞ。そしてそれくらいの価値があるのがダンジョンボスだということだ。半端な強さじゃない」


「ダンジョンに限らずだが俺たち冒険者は装備でも食事でも同じだ。ケチらない。そして休む時はしっかりと休む。これが基本だな。良い物を食べて良い装備を持てば自分自身のモチベーションがあがる。それが攻略の時にプラスになるんだ。俺もローリーもそう考えて行動している」


 ローリーに続いてランディが言った。確かにひもじい食事を続けていれば気持ちも下向きになるし何よりリフレッシュできない。トゥーリアの冒険者2人の言葉に頷く忍び達だった。


「休み明け、明後日からの26層の攻略だが」


 食事があらかた終わったタイミングでローリーが言った。3人が彼に顔を向けた。


「下層に降りていくと敵が徐々に強くなるんじゃなくて突然強くなるフロアが出てくるんだ。個人的な意見だがこのダンジョンが26層までクリアしているということは27層が26層とは全く違う強さになって攻略できなくなったという可能性があると見ている」


 なるほどと頷くケンとカイ。


「全部で50層として半分降りてきた。ここからが本当の地獄のダンジョンの始まりだ」


 ランディが続けて言った。その言葉で気を引き締めるケンとカイ。



 26層の攻略は結果的にはそれほど苦労はしなかった。25層と大きな変化はなく4人は魔獣を倒しながら奥に進んで行き27層に降りる階段を見つけた所でまだ時間はあったが地上に戻ってきた。


 この時点でツバル島嶼国にある地獄のダンジョンへの到達記録に並んだことになったが目標がこのダンジョンのクリアに掲げている当人達は全く気にしていない。


 しっかりと休んだ翌日27層に飛んだ4人は目の前に広がるフロアを見て気合を入れる。


「これは26層で攻略を止めたのがわかるな」


「ああ。これまでのフロアとは全く違うぞ」


 ランディとローリーが階段から27層を見て話をしている。近くにいるケンとカイは言葉こそ出さないが目の前に広がってる景色に圧倒されていた。


 27層のフロア、地面には大きなマグマの川が流れておりその川の上に平らで大きな石が石橋の様に飛び飛びに並んで奥に続いている。そしていくつかの飛び石の上にはランクSの魔獣が常に複数体固まって立っていた。


 飛び石自体はそれなりの広さはあるものの十分とは言えず前衛も後衛も固まって立たなければならない程の大きさだ。


「今の所空は大丈夫だな」


 空洞になっているフロアの上部を見ていたランディが言った。


「ああ。下層に降りると出てくるだろうがこのフロアはとりあえずは大丈夫そうだ」


 目の前の景色を一通り見たローリーが3人の顔を見てそう言った後で言葉を続けた。


「見ての通りだ。逃げ場はない。なので突っ込んでいこう。一気に蹴散らしながら進もう。俺が安全地帯を探すから3人は目の前の敵を倒す事に集中してくれ。後ろは気にしなくてもいいからな」


「わかった」


 ローリーが3人に強化魔法を掛終えるとランディを先頭にしてマグマの川の中にある石橋に飛び乗るとそのまま次の石橋に向かって飛び、すぐに挑発スキルを発動した。その時には背後から同じ様に飛び石の上に飛び乗ったカイとケンが魔獣に刀を振るう。ローリーも背後から魔法を撃ちながら周囲を警戒する。


 装備が格段と良くなっていることに加えダンジョンの攻略を開始してから4人のチームワークが良くなっている。さらに各自がそれぞれやるべき事をしっかりとやっているせいか飛び石の上にいる複数体の魔獣も問題なく倒していく。ローリーは適宜強化魔法の上書きをしながら周辺を見ていた。


「前方にある飛び石の魔獣を倒したらそこから右に移動してくれ。魔獣がいない飛び石が連なっている場所があるぞ」


 背後から声をかけるとこちらも見ずにランディがその通りの動きをする。カイとケンも直ぐに次の飛び石に飛んで3体のランクSを倒すとそのまま右の方の飛び石に飛んでいった。


 そこは右の壁近くで飛び石は1本道になっていてその石の上に魔獣は見えない。全員が移動を終えると各自で水分補給をする。しかもその飛び石の一番奥の石はロアの壁にくっついていた。


「ここは安全っぽいな」


「ああ。しっかり休もうか」


 ローリーの言葉で全員が飛び石の上に腰を落とした。気が抜けない連戦を続けてきたので大きなため息を吐く忍びの2人。ローリーが収納から取り出した新鮮な食事と飲み物を口に運んでようやく一息ついた。


「干し肉だけじゃ元気がでない。ローリー様様だな」


 作られたばかりと変わらない食事を口にしてカイが言った。


「遠慮なく食べてくれよ、いくらでもある」

 

 当たり前だが食事中も周囲を警戒することは忘れない4人。ここはいくつか魔獣がいない飛び石を飛んだ先にある大きな石の上で安全だがいつ近くに敵がPOPするかもしれない。地獄のダンジョンの下層に入ると今までのダンジョンの常識が通用しなくなる。


 ランディがそう説明するとケンとカイの2人も真剣な表情で頷いた。

 彼ら忍2人は地獄のダンジョンの挑戦は初めてだ。しかもこのダンジョンでは誰も降りてきていない27層にいる。何が起こってもおかしくないし何も起こらない方がおかしいだろう。それくらいに不気味なダンジョンだ。


「1時間ずつ交代で休もう。俺とランディが最初周囲を警戒する。1時間たったら交代だ」


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