第8話

 カイとケンが背中を壁に預けて足を伸ばして目を閉じた。休める時に休む。当たり前の事が出来ないと知らない間に疲労が蓄積して思いもかけないミスをしてしまう。そしてこの地獄のダンジョンではミスした瞬間に全てが終わる。ここでは一瞬たりとも気が抜けない。少しでも休める場所を見つけるとそこでしっかりと休むことは必須となる。


 暫くすると2人の寝息が聞こえてきた。流石にAランクの上位だ。しっかりと休んでいるなと安心するランディとローリー。1時間すると今度はランディとローリーが壁に凭れて仮眠をとる。


 都合2時間交互にしっかりとした休憩を取った4人は各自が十分に水分を補給してから27層の攻略を再開した。相変わらず飛び石の上に固まっているランクSの複数体の魔獣達それらを剣、刀、そして魔法で倒して進んで行く4人。


 彼ら4人は簡単に飛び石の上に固まっている魔獣を倒しているが実際にはマグマの川にある飛び石をジャンプして進みながら進行方向で待ち構えている魔獣を討伐してる。しかも魔獣の中には狩人タイプや魔導士タイプもいる。ローリーが魔法で相手の遠隔攻撃を止め、その間にランディが石を飛び移って近づいて彼らのヘイトを稼ぐ。遠隔攻撃持ちは近接攻撃に弱いしそもそも体力がない。近づければ苦労する敵ではないがそれでも固まっている敵に飛び込んでいくのは勇気に加えて戦闘の技量、スキルが求められる。


 カイとケンは最初は躊躇っていたがランディとローリーのコンビネーションを見、自分達も何度か対戦している間に当たり前の様に出来る様になっていた。地獄のダンジョンに潜る前に比べると忍びの2人のスキルは大きく上昇していた。常にランディの背後について移動して戦闘になるとランディの左右から両手に持っている刀で敵に斬りつける。


 休憩した場所までに要した時間と同じ位の時間をかけて奥に進んだ4人は28層に降りる階段をようやく見つけると記録してから地上に戻ってきた。これで久しぶりにこの地獄のダンジョンの攻略層が更新されたことになる。フロアの途中でしっかりと休憩を取ったこともあり地上に出た時は日はどっぷりと暮れていた。


 東の原の市内に戻ってきた4人。ダンジョンから地上に上がった時には外が暗かったので街への戻り道を歩きながら明日を休養日とすることにする。


 その後1週間かけて彼らは30層をクリアすることに成功する。1勤1休でしっかりと体力を回復しつつダンジョン攻略を進めている4人。


「31層からは1日で1層を攻略できるとは限らなくなるぞ」


 30層をクリアして市内に戻ってきた彼ら。今は市内のレストランで夕食をとりながらの会話だ。ランディが言った言葉にうなずく3人。


「つまりフィールドは広くなり、且つ今までよりも更に難易度が上がるということだな」

 

 地獄のダンジョンに潜り続けてその鬼畜さを分かってきたカイが言った。たった今クリアした30層もひどかった。マグマの川から突然魚が飛び出しては冒険者達目がけて飛んできた。まるで火の玉だ。


 ランディが盾で受け止め自分達は刀で魚を切り裂くがそれ以外に当然地面の上には複数体のランクSの魔獣がそこら中を徘徊しておりそいつらも倒さなければならない。ローリーが強力な強化魔法を掛けていたがそれでも燃え盛る火の玉の様な魚が直撃したら無傷では済まなかっただろう。


 そんな理不尽なフロアだったがローリーが魚がマグマの中から飛び出てくる前に左!、右!と声を出してくれるので魚の攻撃を事前に予測でき討伐が楽だった。ローリーに言わせるとマグマの池から何かが飛び出てくるぞという気配が分かるのだという。


「ローリーの気配感知があって助かったよ」


「そりゃよかった」


 カイの言葉にあっさりと答えるローリー。


「ローリーは俺たちの中でも最も気配感知に優れている。彼に背中を預けておけば安心さ」


「全くその通りだな。真っ赤になって流れているマグマの川の中から最初いきなり燃えているかの様な姿の魚が飛び出してきた時はびっくりしたよ」


 その時のことを思い出したケンが言った。マグマの中にある飛び石を進んでいると突然


「左、川の中から何か来るぞ」


 そう叫んだローリー。直ぐにランディが盾をそちらに構えると真っ赤なマグマの中から同じ様な真っ赤な火の玉かと思える物体が飛び出してきた。それを盾で受け止めて片手剣で切り裂いたランディ。飛び石の上に落ちたその物体を見るとそれは体長50センチ程の魚の形をしていた。


「マグマの中から飛び出してくるのか」


 光の粒になって消えていく魚の魔獣を見てカイが言った。カイとケンはローリーの言葉に反応できなかった。ランディだけが反応していた。初見で自分達に向かってきていたら大怪我をしていただろう。ランディが条件反射の様に対応しているのを見て自分達はまだまだだと痛感した2人。



「あの時は本当にびっくりしたよ。まさか煮えたぎっているマグマから魔獣が飛び出してくるとは思わなかったからな」


 その時のことを思い出しているとランディが言った。


「これが地獄のダンジョンだよ。常識が通用しない。常に360度周囲、そして空や土の中を警戒をする必要がある。まだ30層でこれだ。ここから下に降りるともっとえげつない、理不尽な事が起こるだろう」


「ようやく地獄のダンジョンが難攻不落だという意味が分かってきたよ。敵のランクだけじゃない。さまざまなギミックが隠されているんだな」


 ケンが言うとその通りだとローリーが言った。


「どうだい?攻略のし甲斐があるだろう?」


「全くだ」


 ランディの言葉に即答した2人だった。


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