第43話 <アタクール>

「あの城壁がアタクールだな」


 ナタール河沿いを歩いてきた4人の目の前に石垣で作られている城壁が見えてきた。街とは言えない程の規模だとアラルが言っていたが外から見た限りだとしっかりとした城壁に囲まれている街の様に見える。河沿いの道は緑も多くまたリモージュの冒険者達がしっかりと魔獣を間引きしているのだろう。結局魔獣の姿を見ないままにアタクールに着いた4人。

 

 市内に入った4人は門と反対側、市内の奥にある場所に向かった。商業区を抜けた先に目的の建物、煙を出している小屋が見えてきた。


「こんにちは」


 小屋の扉を開けてランディが中に声をかけるとしばらくして男が奥から出てきた。身長は170センチはないだろう。がっしりとした体躯をしている。作業着を着ているので仕事、鍛冶の最中だったのかもしれない。


「アルバトさんかい?」


「そうだが。おたくらは?」


 胡散臭そうな目でこちらを見てくるアルバト。


「リモージュに住んでいる鑑定家のアラルから紹介を受けてやってきた。俺はランディそれでこっちからハンク、マーカス、そしてローリー。トゥーリアのリゼって街に所属して冒険者をやってる。全員Sランクだよ」


「Sだと?」

 

 Sランクと聞いて表情が緩んだ様に見える。

 そうだと言ってランディがギルド発行の冒険者カードをアルバトに見せた。そのカードをじっくりと見てからカードを返して顔を上げて4人を見る。


「アラルからの紹介だって言ったな。紹介状はあるのかい?」


 あるよと胸のポケットからアラルが書いた紹介状が入っている手紙をアルバトに渡す。店の入り口に突っ立っている4人を見て中で適当に座ってくれと言われて中にあった椅子の上に座った4人。アルバトはアラルの紹介状をじっくりと読んでから顔を上げた。


「アラルは俺の古くからの知り合いだ。あいつは滅多な事じゃあ俺を紹介しないしそもそもアラルが紹介状を書くことなんてこれが初めてだ。正直驚いているがこりゃ間違いなくアラルの字だ」

 

 手紙をランディに返すとアルバトが言った。


「それでSランクのあんた達が俺に何の用かい?アラルの手紙じゃ鍛冶を頼みたいとしか書いてないんでな」


 それまで黙ってやり取りを聞いていたローリーが収納からヒヒイロカネのインゴットを取り出した。それを見たアルバトの表情が変わった。


「おい、そりゃもしかしてヒヒイロカネじゃないのかよ」


 ローリーが言う前に鉱石の名前を言うアルバト。


「その通り。アラルの鑑定でもこれがヒヒイロカネだと言っている。あんたは知ってたのかい?」


 ローリーがインゴットをアルバトに渡してから言った。


「知ってるというか。現物を見たのはこれが初めてだ。ただいろんな資料に載っていたんでその色合いや光具合なんてのは覚えていた。そうか、これがヒヒロカネか。実在したんだな」


 手に持ってさまざまな角度からインゴットを見ているアルバト。


「これはダンジョンから出てきたものなんだよ。アラルに見せたらヒヒイロカネだと鑑定しこれを武器にするならアタクールに住んでいるアルバトじゃないと無理だろうと言われた」


 ヒヒイロカネをじっと見ていたアルバトが顔を上げて4人を見た。その目はやる気に道ていた。


「アラルから聞いているかも知れんがこのヒヒイロカネはこの世界で最も硬い金属だと言われている。だからその加工の普通の鍛冶の技術じゃ無理だ。だが任せろ。俺がこれを使って最高の武器に仕上げてやろう」


 アルバトが言うにはこのインゴットを丸々使って武器を作ることもできるがそれは勿体無いという。


「今持っている武器の表面にこれを均一にコーティングするんだ。効果は変わらないし武器辺りに使う量が減る分複数の武器を強化できる。もしこれ全部を使って武器を作るとすればせいぜい片手剣1本分くらいの量だ。装飾用としてならまだしもお前さん達は冒険者で実践で使うのだろう。であればコーティングして強力な武器の数を増やした方が良いぞ」


 そしてコーティングすることによって今の武器が持っている特性が消えることはないと言う。今の特性はそのままでさらにヒヒイロカネの特殊効果が出るらしい。


 話を聞いた彼らはコーティングしてもらう方がずっとメリットがあると理解し、ランディとハンクの片手剣を1本ずつ、そして火のダンジョンから出た片手斧1本。合計3本をアルバトに渡した。


「この3本なら大丈夫だ。この3本もなかなかの優れものじゃないか。滅多に見ないぞ。わかった。1ヶ月もありゃ3本の加工ができるだろう」


「そんな早くできるのか?」


 最低でも数ヶ月は覚悟していたが1ヶ月と聞いてびっくりする4人。


「大丈夫だ。1ヶ月後に取りに来てくれ」


「わかったそれで加工賃だが」


 そう言いかけたローリーを手で制するアルバト。


「ヒヒイロカネの加工はな、鍛冶職人に取っちゃあ夢みたいな仕事なんだよ。加工賃なんぞいらん。これを叩けるというだけで金には変えられない価値があるんだ。お前さん達がびっくりする位の品質の武器を作ってやるから楽しみにしておいてくれ」


 アルバトの鍛冶屋を出た4人はその日はアタクールの街に宿をとった。夕食は宿から聞いたおすすめのレストランに出向いてそこで摂る。リモージュから近いこともありこの街には冒険者ギルドはない。従って冒険者の格好をしているのをほとんど見ない。


「アルバトがすんなりと受けてくれてよかったな」


 食事を注文し終えるとランディが水を一口飲んで言った。


「それだけアラルが信用のある男なんだろう」


「俺もそう思う。根っこはアラルだな」


 料理はリモージュと同じく辛味の効いた肉だがこれが美味い。酒こそ飲めないがこの料理を食するだけで気分転換になりそうだ。今では4人ともネフドというかリモージュのこの辛い肉料理にすっかりハマっていた。


「1ヶ月か。予想より早かった。ちょうどよい気分転換になるだろう」


 ランディが言った。


「そして新しい武器を持って49層、そして50層のボスに挑戦だな」


「ランディとハンクの攻撃力アップは最下層攻略で大きな助けになるな」


 ハンクが言い、マーカスが続けて言った。49層は階段から見た限りだと洞穴が奥に伸びているだけだったが漂っている雰囲気は普通ではなかった。


「おそらくSSからそれ以上の敵が洞穴というか通路にいるだろう。そしてずっと通路が続くのかどうかも分からない。洞穴だと高さと幅に制限がある。マーカスの矢や俺の魔法が撃ちづらい場所があるかもしれないからな。そんな時に前衛の武器が強化されるのは攻略するのに大きなアドバンテージになるだろう。いいタイミングだったよ」


 その通りだとランディが言ってフォークを肉に突き刺した。


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