第17話

 交代で睡眠をとった翌日再び39層の攻略を開始した。相変わらず小雨が降っていて見通しが悪い中不安定な吊り橋を渡っては前に進んで行く4人。昨日のローリーの言葉通りに2体出てくる吊り橋ルートを選択して進んでいるとその日の夕刻に40層に降りる階段を見つけた。


「凄いな、ローリーの言った通りだった」


 階段前の広場に着くとカイが言った。隣ではケンも大したものだと言っている。


「今回はダンジョンが出してきたヒントを理解することが出来た。皆も気が付いたらすぐに言ってくれ。些細なことでも構わない」


 その後は階段を降りて40層のフロアを見る4人。


「楽だったフロアは終わったか」


「これはきつそうだ。まぁ40層だからな。ここからの最後の10層はきついぞ」


 4人の目の前に広がる景色は38層、39層とは全く違っていた。

 上のフロアでもあったが地下空洞というか大きな空間が広がっておりその中に火を噴き、マグマを放出している火山が見えている。そのマグマは火山を起点として川の様に地上を流れていた。そして時折噴火から飛び出した溶岩石が地上のあちこちに落ちてきている。地上に道はなくマグマの流れているところが川になっていた。幅は広いところでも1メートル程。ジャンプして越えられない距離ではない。


 ただそのマグマの川が流れている地上には多くの魔獣が徘徊しているのが見えた。見える限りでもそれらの魔獣のランクはSSクラスだ。奥に行けばそれ以上がいるのかもしれない。


 上からたまに落ちてくる溶岩石に注意を払いながらマグマの川を飛び越え、そこにいる魔獣を倒して奥に進んでいくフロアになっていた。


「きつい上に広いだろうな」

 

 前を向いたままランディが言った。


「その通りだ。目の前の広場はノンストップで進んでいく必要があるだろうが、ここからだと安全地帯が見えないな」


 ローリーがそう言ってから上に戻ろうと3人に声をかけた。

 上に上がるとまだ夕刻前だった。ギルドが混む前に4人はギルドに顔を出してカードを記録し精算をする。


 受付嬢は4人のカードを読み取って一瞬表情を変えたが流石に声に出す事はしない。


「カードをお返しします」


 その後指輪の鑑定をしてもらうと何とその腕輪は二刀流の効果アップの腕輪だった。忍2人で話し合った結果カイが装備する。


「これでまた少し強くなったぞ」


 指輪を装備したカイが言った。


「いい事だ、少しでも攻略が楽になる」


「ケンのも出るといいな」


 4人はギルドを早々に後にすると宿に戻ってそこの食堂で夕食を取ることにする。できるだけ雑音を排除するというランディの言葉に皆従っていた。最初はそこまでするのかと感じていた忍びのカイとケンだが今ではその時のランディの発言の意味がよくわかる。攻略に100%集中するには周囲の無責任な発言や褒め言葉なんてのは全く必要が無いって事が。


「クリアした後ならいくらでも話をして教えてやってもいいだろう。でも今は止めておこう。この緊張感を持続させたい」


 ローリーが言うと皆その通りだと言った。明日と明後日は休養日にして身体と心をリフレッシュさせるのと刀の研ぎや薬品の補充に充てることにした。


「ランディとローリーは2日の休養日はどうしているんだい?」


「先週はアマノハラに1日行ったよ。もう1日は完全に宿で休んでいた。今回は2日ともしっかりと休むつもりだ。40層から下で安全な野営場所が見つからなかった場合にはフロアをクリアするまでほとんど寝られないという可能性がある。寝溜めしておく」


 ローリーの言葉を聞いたケンとカイは俺たちも用事が済んだらそうしようと言った。


「ローリーが言ったのは大袈裟でも何でもない。1時間程度の細切れな休憩だけでほぼぶっ通しでフロアを攻略しなければならない可能性だってある。それが地獄のダンジョンだ。40層からは何があっても不思議じゃないんだ」


「ただなフロアから下のフロアに降りる階段、あれは100%安全な場所だこれは地獄のダンジョンでも同じなんだ。41層に降りる階段を見つけるまでの辛抱さ。先が見えていない訳じゃない」


 ランディに続いてローリーが言った。


「確かにローリーの言う通りだな。ちょっとは気が楽になったよ。とは言え2日はしっかり休む事にするよ」


 

 予想通りというか40層の攻略は簡単ではなかった。4人は攻略を始めてから3時間が経った今も休憩を取る時間がなく、ほとんど連続で襲いかかってくるランクSSクラスの複数体を相手にゆっくりと前に進んでいた。

 

 リンクしている3体を倒すと1分ほどの時間で水分を補給しまた次のリンクと戦闘をする。この繰り返しが続いているがランディとローリーは毎回的確な指示を出して遅いかかってくる敵を倒していた。カイとケンも事前に聞いていたので必死で2人についていっている。


「ランディ、その3体を倒したら目の前の溶岩の川を飛び越えて左に走ってくれ。その先に壁が凹んでいる場所がある!」


 強化魔法をかけながらローリーが叫ぶ。


「わかった。カイとケンも頑張れよ」


「任せろ!」


 マグマの川から立ち上る熱気と目の前にいる複数のSSクラスの敵。3人で倒すと次々と川をジャンプして飛び越えてすぐに左に走っていった。そこには1体のリンクSがいたがそれを倒すとその奥に洞窟の様な横穴が見えて全員がそこに飛び込む。


 飛び込んでもすぐに腰を下ろすことはせずにその洞窟の壁を調べる4人。奥行きは10メートルほどで奥は壁で行き止まりになっていた。


「安全だな」


「ああ。気にするのは入り口だけだ」


 そのやりとりでようやく4人が地面に腰を下ろす。


「流石に40層になると簡単じゃないな」


 そう言ってどっかと腰を下ろしたランディ。ローリーが収納から冷えた大量の水が入っているボトルを取り出すとその1本を掴んで浴びる様に水を飲む。他の3人も同様に水を飲み顔に水をかけて涼をとった。


「妙な小細工がない分きついよな」


 ローリーが言うとカイが続けて、


「でもまぁよくこの場所を見つけてくれたよ」


 と言った。ケンもそろそろ限界が近かったからなと心底ホッとした表情だ。


「俺は後から見てるからな。こう言った場所を探すのは結構得意なんだよ。それよりもだ」


 そう言ってから言葉を続けるローリー。


「この先にこの様な休憩できる場所がある保証はない。ここで大休憩してしっかりと疲れを取ろう」


 洞窟の安全地帯とは言え入り口は開いている。彼らは横の壁に上半身を預けて座っているが2人が入り口に向かって座り、残り2人は奥に向けて座っている。


 ローリーは向かいの壁に座っている忍の2人を見てよくあの連戦を耐え切ってくれたものだと感心していた。ランディはナイトジョブであるので硬くて敵の攻撃を受け止める技量は相当高いが攻撃力はジョブの関係で落ちる。そこを忍の2人がしっかりとフォローしていた。おかげでリンクの連続にも対応できたと言える。


 彼ら2人もこのダンジョンに挑戦し出してから相当成長して強くなっている、これなら41層から下に降りていっても安心だ。このパーティは下に降りて相手が強くなるほど全員が強くなっていると実感していた。


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